定型化したプロダクトの形を疑い、「アイコン」に落とし込む
岩嵜博論氏(以下、敬称略):前編では、パナソニックによるデザイン変革の取り組みについてお聞きしました。広義のデザインを取り入れつつも、プロダクト開発を最も重視する姿勢は非常に特徴的でした。ここからはプロダクト開発の具体的な話をお聞きします。
木村博光氏(以下、敬称略):プロダクト開発の大きな方針としては、社長の品田(正弘氏。パナソニック株式会社 代表取締役社長執行役員CEO)の打ち出した「引き算の商品企画」があります。顧客にとっての本質的な価値に焦点を当て、機能や特長を絞り込むプロダクト開発を行っています。そして、それを実現するために、デザイン本部が取り組んでいるのが「アイコン化」です。
アイコン化とは、デザインの意味と背景を深掘りし、一つの象徴的な形に昇華することです。各商品の競争力を高める独自性を追求しつつ、パナソニックとしての一つの世界観を構築します。
岩嵜:「アイコン化」とは、具体的にはどのようなアプローチでしょう。
木村:一例としては「新骨格によるアイコン化」です。ドライヤーや掃除機、シェーバーなどは、どのメーカーのプロダクトも同じ形をしていますよね。そうした定型化した形を疑い、新たな骨格を提案するのが「新骨格によるアイコン化」です。具体的な例としては、持ち手のない5枚刃シェーバー「ラムダッシュ パームイン」があります。シェーバーといえば、ヘッドと持ち手が付いているのが当然だったところ、ヘッドだけのシェーバーという新たな骨格のプロダクトを創出しました。
岩嵜:散発的に新たなデザインを発想するのではなく、「アイコン化」という方針のもと組織的にプロダクト開発に取り組んでいるわけですね。それならば、新規開発の成功確率も高まるでしょうし、非常に戦略的だと思います。
木村:さらに、もう一つ重要なのは、パナソニックではプロダクトを「新規商品」と「成熟商品」に分け、その両者に力を入れていることです。成熟商品とは、洗濯機や炊飯器、冷蔵庫など、市場が成熟しているプロダクトを指します。成熟商品はパナソニックが長年にわたって育ててきたプロダクトということもあり、奇を衒うことなく王道のデザインを追求する方針です。しかし、それだけではすべてのプロダクトが既存の延長線上に留まってしまうため、新規商品の領域で新たなデザインの開発に取り組みます。こうした二軸のデザインでブランドの世界観を構築するのが、現在の戦略です。