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経営戦略としての人的資本経営

なぜ新規事業のアイデアは“とりあえず◯◯”になるのか──人間を理解し美辞麗句を疑う、新インサイト論

【前編】ゲスト:株式会社ストラテジーキャンパス代表取締役 中村陽二氏

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なぜ事業家は「人間の根源的な欲望」を理解するのか

──経営層からすると、新規事業のアイデアがインサイトに根付いているか、正しく領域選定できているのかを判断しなければいけません。その判断の際にも、その領域における知識や経験が必要ということでしょうか。

中村:そうですね。ただし、あらゆる領域に詳しくなるのは無理ですから、もっとシンプルに「普遍的なニーズに基づいているか」を判断基準にしたほうがよいと思います。書籍でも紹介したプログリットの例でいえば「英語がうまくなりたい」。これは極めてシンプルかつかなり普遍的なニーズですよね。それ以外にも「儲けたい」「モテたい」「痩せたい」など、普遍的なニーズは数多くあります。そうした直感的に理解できるニーズに基づいているかに着目するのは、経営層が新規事業を判断する際の基準になると思います。

日置:人間の根源的な欲望とは何か、ですね。

中村:おっしゃる通りです。優秀な人材になればなるほど「課題」や「ペイン」というフレーズを使ってしまう傾向があると思います。しかし、そうした洗練されたフレーズが指すものが、人間の根源的な欲望に根ざしているかといえば私は疑問です。むしろ、本質から遠ざかっている印象すらあります。

 だから、私は事業を創る人物は、人間に詳しくないといけないと思っています。根源的な欲望は、実はユーザーにヒアリングしてもなかなか出てきません。例えば、ライブ配信者の女性に投げ銭をしている男性ユーザーに「なぜ投げ銭をしているのか」と尋ねても「夢を応援したい」といった表向きの理由しか出てこないでしょう。だからこそ、事業を創る人物は、ユーザーに尋ねるのではなく、自分のなかの人間の欲望のモデルケースに照らし合わせて、インサイトを発見しなければいけません。それは言い換えると「人間に詳しくなる」ということと等しいのではないかと思います。

──たしかに、新規事業のプロジェクトがどこか理念先行的になりがちな印象はあります。

中村:優秀な人材は、他者への配慮や抽象的な思考が自然と身に付いていることが多いので、ビジネスを創る際にも美辞麗句を並べてしまいがちです。しかし、それでは欲望から遠ざかってしまうのでユーザーからも共感を得られず、結果として事業のスケーラビリティものぞめなくなってしまいます。

 とどのつまり、「画期的なニーズを求めない」ということが重要なのだとも思います。Googleですら、主力となるビジネスは広告事業です。町のラーメン屋さんは「検索で上位表示されれば集客の役に立つ」という、極めて普遍的なニーズからGoogleに広告を出稿しています。こうしたありふれたニーズの集積がGoogleという巨大企業を支えているわけです。だから、新規事業を検討する際にも、その事業が想定しているニーズがいかに普遍的なものなのかに着目すべきでしょう。逆に、ニーズが画期的で真新しいものであったときは、経営層はより一層疑いの目を持って新規事業を吟味すべきだと思います。

──「経営層が理解してくれない……』という話はよく聞きますが、そもそも対象のアイデアが人の根源的な欲望に根付いていない場合もありそうですね。このあとは、新規事業開発における「人」と「組織」に関して、詳しくお聞きできればとお思います。

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この記事の著者

島袋 龍太(シマブクロ リュウタ)

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