ものづくり企業で顧客起点を浸透させる難しさ
宇田川:芦村さんが入社された際に、「住宅の新規着工件数が減っているからこのままではいけない」という問題意識はあったのでしょうか。
芦村:会社として問題を認知はしていたとは思いますが、それを受けた方針が私たちの部門に下りてきていると感じることは、当時はまだなかったように記憶しています。
私は他の業界からの転職なので、前職と比べ、企業として、エンドユーザー向けのCS(カスタマーサービス)にまだあまり力を入れていないと感じました。以前在籍していた業界ではCSが非常に重視されていて、お客さまの満足を高いレベルで追求するということが標準でしたので、競合企業も含め、住宅業界はまだそういう取り組みが少なく、これから良くなる余地が大いにあるとも感じました。
宇田川:ものづくり企業が共通して抱える問題でしょうね。CS部門の皆さまは、そこにモヤモヤを感じていたのでしょうか。
芦村:メーカーということで、どうしても生産部門が花形で、正直申しまして、CS部門はあまり人気のある部門ではないように感じました。もっとみんなが来たくなるような部門にしなければいけないな、と考えていました。その状況も、私たちがマーケティング部門の中に入るということになって以来、変わってきつつあります。
宇田川:会社の中での戦略的な位置づけが変わり、CS部門の方たちの意識も変わってきたんですね。
芦村:そう思います。
増田泰彦氏(以下、敬称略):クアルトリクスは、企業が顧客や従業員、その他のステークホルダーに対してどのような体験を提供し、関係性を築いていくのかといったところを支援するSaaSのプラットフォームを提供しています。私はシニア カスタマーサクセス マネージャーという役割で、お客さまが我々のプラットフォームを有効に活用して成果を出していただけるように支援をしています。
LIXILさんには顧客体験と従業員体験の両方のツールを使っていただいていますが、宇田川先生との共同研究の対象となったのは顧客体験の向上に関する取り組みです。具体的には、コンタクトセンターで接点のあったお客さまとどのようにリレーションを向上させていくか。特にその観点で芦村さんのカスタマーサービス統括部とご一緒させていただいております。

ツールの導入前に必要な目的の明確化と検証サイクル
宇田川:クアルトリクスとしてどのような支援をし、LIXILさんがどのように変わってきたのか、増田さんの視点から説明してくださいますか。
増田:2020年頃にまずショールームで我々のSaaSを使っていただいて、2021年からコンタクトセンターのほうでもお使いいただくようになりました。
SaaSというのはあくまで道具なので、これを使って何をしたいのかという目的がしっかり定義され、共有されていることが重要です。CSであれば、ツールを使ってお客さまのことをもっと知りたいというモチベーションがあるのかどうかも、成果に大きく差が出ると感じています。しかし、日本企業の現場では目的や自分たちのやりたいことをなかなか明確にできずに、苦労されるケースをよくお見受けします。
LIXILさんでも、導入当初は「このツールを使ってLIXILでは何をしたらいいですか?」とか「他社さんはどうしてますか?」などと、自分たちがやるべきことの正解をどこか外部に求めてこられるようなやりとりもありました。それに対して私は、まずはご自身で考えてやってみて、上手くいかなかったらそれを検証して、他の方法を試していってくださいね。その取り組みを通じて、ご自身にとっての正解を見つけていくことが重要ですよ、といったお話をしながら、LIXILさんのお取組みに伴走してまいりました。
導入からある程度期間が過ぎた時点でLIXILさんの取り組みを共有いただいたのですが、そのプロセスは非常に理想的なものになっていました。みなさんがご自身で仮説を出してやってみて、異なる結果が出ればまたそこから仮説を導き出してやってみる、というサイクルがどんどん回っているようでした。とても良い事例だったのでクアルトリクス内部で共有し、それが別の担当者を介して宇田川先生にも知っていただくきっかけになり、共同研究がスタートしたというわけです。