新規事業ポートフォリオの実践ルール
これまで第3回、第4回と2回にわたって、ビジョンから連なるインキュベーション戦略の策定に向けた検討ステップや論点を整理してきました。
ここまでで検討してきたインキュベーション戦略の内容から、次は、自社の経営資源を何に対していくら投資するかを検討し、適切なポートフォリオを組むステップに進みます。様々な領域やテーマ、アプローチに対して適切に経営資源を分配することで、中長期的に再現性の高い新規事業開発の実現を目指すのです。
ここで、ビジョンに基づく新規事業開発の方針と戦略が定まり、経営トップから全社や必要なステークホルダーに対して発信していくストーリーが完成します。どの企業にも当てはまる“最適なバランス”や“方程式”は存在しません。自社の保有する経営資源や特徴・性質、産業や業界などの外部環境からの影響を考慮しながら、自社にとって最適なポートフォリオを模索していくことになります。
また、一度決定したバランスで投資した後でも、進捗や成果を見ながら常に見直しや調整をかけていくので、筆者はまず、比較的保守的な組み方からスタートすることを推奨しています。
それでは、具体的な論点を確認していきましょう。
ここからは「隣接領域」「周辺領域」「革新領域」という新規事業における各領域に対して、どのようなバランスで投資するかを検討します。この3つの領域はそれぞれ以下のような性質を持ちます。
- 隣接領域:ローリスク・ローリターン=規模は小さいが時間軸は短期
- 周辺領域:ミドルリスク・ミドルリターン=規模も時間軸も中程度
- 革新領域:ハイリスク・ハイリターン=規模も大きく時間軸は中長期
隣接領域から革新領域に向かうほど、不確実性が高まり時間軸が長くなる一方で、成功した際のリターンや規模が大きくなります。この3つの領域でポートフォリオを組む場合は、隣接領域(50~60%)、周辺領域(20~30%)、革新領域(10~30%)が1つの目安になりますが、ここでも自社に合った最適なバランスをケース・バイ・ケースで策定します。
一部の例外的なケースを除き、このポートフォリオの検討において大切なことはすべての領域に分散して投資することで、期待できる規模の軸と成果が出るまでの時間軸を網羅することと、保守的なバランスから開始しつつも様子を見ながらリターンの可能性を最大化できる配分の調整を柔軟に実施していくことです。
たとえば、ハイリスク・ハイリターンな革新領域で成功の兆しが見えたら、一度その他の領域への投資を抑え、その分を革新領域に寄せて一気に成長を加速させるなどの判断も十分に考えられます。
次のページでは、図のように事業開発アプローチと対象とする領域の親和性を整理していきます。
