なぜキリンは「価値創造」のために、まず「生産性向上」から取り組んだのか
──まずは野々村さんのご経歴をお聞かせいただけますか。
野々村俊介氏(以下、野々村):2008年にキリンビールに入社し、需給担当として8年間勤務しました。その後、外部のコンサルティング企業に2年間の出向を経験しました。そして、キリンビールに戻り、D2C事業においてフルフィルメントを担当。EC基盤の改修やCRMの構築などを手がけました。2024年に現在の所属であるデジタルICT戦略部に配属となり、2025年4月にはDX戦略推進室の室長に就任しました。
小宮昌人氏(以下、小宮):DX戦略推進室はどのようなミッションの組織なのでしょうか。
野々村:キリングループが2025年に発表した長期デジタルビジョン「KIRIN Digital Vision 2035[1]」では、目指すべきビジネス上の成果として「生産性向上」と「価値創造」の主に2つを掲げ、その土台となる「デジタル基盤の強化」を掲げています。DX戦略推進室は、この2つの成果の達成とその土台となる基盤強化を部門横断的なプロジェクトとして立案・推進する組織です。従来は部門ごとに点在していたデジタルによる生産性向上や価値創造の取り組みを集約し、戦略的に推進するCoE(Center of Excellence)組織です。

──本日はキリングループの生成AI活用についてお伺いしますが、その起点となるKIRIN Digital Vision 2035について先にご説明いただけますか。
野々村:キリングループは2019年に長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027(KV2027)[2]」を発表し、イノベーションを実現する組織能力の1つとして「価値創造を加速するICT」を掲げています。この構想をビジョンや戦略に落とし込んだのがKIRIN Digital Vision 2035です。「食」「ヘルスサイエンス」「医」の領域における価値創造の質、量、スピードの飛躍的向上を通じて、「CSV先進企業」への成長を目指します。
目指すべき成果として掲げたのが、先ほど述べた生産性向上と価値創造です。たとえば、生産性向上施策の1つとして2024年に食の領域で、AIを活用した自動販売機のオペレーション最適化サービス「Vendy(ベンディ)[3]」をリリース。自動販売機の設置先ごとの商品ニーズや補充数などAIで予測し、売上機会の損失低減やオペレーション業務の効率化を図ります。

また、価値創造の取り組みとしては、ヘルスサイエンスの領域で、調剤薬局向けAI置き薬サービス「premedi(プリメディ)」を提供し、利用頻度の低い医薬品の在庫管理の適正化や廃棄の最小化を可能にしています。

生成AIに限らず、これらのデジタルを活用した取り組みを通じて、価値創造をブーストし、世界のCSV先進企業になることが、KIRIN Digital Vision 2035の最上位ゴールです。その成果は、価値創造×生産性向上で表現できます。まずは業務プロセス改革などを通じた生産性向上で資源を捻出し、それによって生まれたリソースを価値創造に再投下するといった着手順を想定しています。
[1]キリンホールディングス株式会社『デジタルトランスフォーメーション』
[2]キリンホールディングス株式会社『長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」「キリングループ2019年-2021年中期経営計画」を策定』(2019年02月14日)
[3]キリンホールディングス株式会社『AIを活用した自動販売機のオペレーション最適化サービスを2024年10月から導入開始』(2024年3月12日)