「優秀な人材ほどすぐ辞める」時代だからこそIRMが不可欠
筆者が「IRM」という概念を強く推奨する理由は、大きく3つあります。
1つ目は、前述のとおりイノベーター人材が極めて希少であることです。極めて希少な存在であるイノベーター人材との関係性構築や能力発揮の最大化を実現できないと、その会社はイノベーション創出に向けた原動力を失い、大きな機会損失を被ることになります。
2つ目は、イノベーター人材はその希少性や性質ゆえに流動性が高く、関係性が良好でないと流出してしまうリスクが高いことです。イノベーター人材は意志が強く、行動力もあるため、自社で自分の意志や能力を存分に発揮できないと感じた場合に、自ら起業したり、自分を受け入れてくれる別の会社に転職したりするなど、退職に至る可能性が高い傾向にあります。
そしてまた、希少な存在であるがゆえに他の会社からも引く手あまたであり、すぐに転職先が見つかってしまうこともその要因になっています。
3つ目が、従来の企業における組織や制度は少数派であるイノベーター人材を重視して設計されていないため、意識して取り組まなければ関係性が悪化する可能性が高いことです。
「場」や「制度」だけを整えてもイノベーションの芽は摘まれてしまう
IXを向上させるための取り組みは、必ずしも自社内のイノベーター人材に限った話ではありません。たとえば「オープンイノベーション」として外部のベンチャー・スタートアップ企業などと協業する際には、その企業のイノベーター人材と良好な関係性を築くことが不可欠です。
もし関係性が悪化すれば悪評が広まり、優秀なベンチャー・スタートアップ企業に敬遠されるようになってしまうかもしれません。自社にとってベストなパートナー企業が、競合他社と提携してしまうこともあり得ます。IRMの考え方が組織に浸透していないと、他社の成功事例を形だけ真似したり、流行りの「場」や「箱」や「制度」などのハードを用意するだけだったりと、 うわべだけに終わり長続きしません。
そこにIRMという「ソフト」がともなわないと、結果として適切にイノベーター人材を支援する仕組みを実現することは困難になります。

もちろん、企業の収益のメインとなる既存事業で活躍している従業員が大半の中で、イノベーター人材だけを特別扱いしたり優遇したりする必要はありません。
しかし、何のケアもせずにイノベーター人材を放置し、既存の組織構造や制度の枠に無理にはめ込んで評価して潰してしまうことだけは避けるべきでしょう。もし避けられなければ、未来の新規事業やイノベーションの芽は確実に摘まれてしまうことになるからです。
次回は、IRMを実践するための具体的なアプローチやイノベーター人材を発掘するための考え方などについて詳細を解説します。