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日清食品HD経営管理部 部長と一橋大学・青木教授が語る、戦略の実行不全を回避する「自走する組織」とは

Connect to Transform Conference 2025 セッションレポート Vol.1

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「日清10則」に学ぶ、自走する現場の作り方とは

 精緻な仕組みを構築しても、それだけでは組織は動かない。続いて議論のテーマとなったのが「現場が『自ら動き出す』ためのマネジメント方法」というものだ。議論の焦点は、仕組みという「ハード」を真に機能させる「組織文化」という「ソフト」へと移った。青木教授は、戦略を実行するための「マネジメント・コントロール・システム」には4つの類型があると解説した。

マネジメント・コントロールの4類型
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 4つの類型とは、「成果コントロール(優れた成果に報いる)」、「行動コントロール(行動を直接的に制御する)」、「人事コントロール(適した人材を採用・育成する)」、そして「文化コントロール(望ましい規範や価値観を浸透させる)」だ。

 「管理会計だけで課題を解決することはできません」と青木教授は断言する。優れた企業は、成果コントロールの仕組みだけでなく、その土台となる経営理念や組織文化を非常に重視している。この指摘に、香川氏も深く頷く。日清食品の実行力の源泉は、まさにこの「文化」にあるというのだ。

 香川氏は「日清10則」を用いて説明する。これは同社に受け継がれる行動規範であり、その7番目と8番目に、日清食品の文化を象徴する言葉が記されている。

  • 07. 迷ったら突き進め。間違ったらすぐ戻れ。
  • 08. 命令で人を動かすな。説明責任を果たし、納得させよ。
日清10則
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 「コロンビアで社長をやっていたとき、大失敗してかなり大きな金額の損失を出したんですが、日本に帰ってきたら『次は経営管理をやれ』と。日清食品は失敗を許容する文化があるんです」と香川氏は語る。緻密に戦略を練り続けるよりも、小さなトライアンドエラーを高速で繰り返し、走りながら修正していく。この文化が、現場に「まずはやってみよう」という当事者意識を醸成し、戦略の実行を加速させる。

 さらに香川氏は、現場を動かすマネジメントの極意として「自分でやってみせる」ことの重要性を説く。本社から戦略や方針を押し付けられると、現場が「カチンとくる」のは当然の感情だ。そこで香川氏の部署では、事業会社が手を付けられていない新規領域などの提案を行う際には、「では我々にまずやらせてください」と自らトライし、小さくとも成功事例を作って見せるのだという。

 論理で説得するのではなく、行動と結果で示す。この姿勢こそが、現場の信頼を勝ち取り、「自分たちもやってみよう」という自発的な動きを引き出すのである。

CONX 2025

経営企画が担うべき「3つの役割」

 セッションの最後、議論は「経営企画部門の成果とは何か」という本質的な問いに及んだ。香川氏は「海外の企業ではお金と戦略は一体で見るべきだとの考えで、CFOがその機能を担うことも多い。」と語る。青木教授もこれに呼応し、事業部に張り付いて本社と現場を繋ぎ、事業部の成果そのものに責任を負う「ディビジョンコントローラー」という役割の重要性を説いた。

 もはや経営企画部門は、本社から現場を「管理」するだけの存在ではない。戦略の背景を語る「翻訳者」であり、現場と共に汗をかく「実践者」であり、事業の成果にコミットする「当事者」でなければならない。戦略と実行の分断を乗り越える鍵は、精緻な仕組みの設計以上に、こうした人間臭いコミュニケーションと、挑戦を許容する文化、そして経営企画部門自身の変革にかかっている。

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この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

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