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AIは空気を読まない、経営者は「変曲点」を読め──山口周氏と語る、これからのリーダーに求められる条件

ゲスト:独立研究者 山口周氏、株式会社ログラス 代表取締役 執行役員CEO 布川友也氏

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社会でのコンテクストの「変曲点」をつかむ

山口:企業におけるコンテクストには、個人や組織などのいくつかのレイヤーがありますが、私は社会というマクロなコンテクストの動きをつかむのが経営者の役割だと思います。

 ヤマト運輸の小倉昌男さんが好例ですね。小倉さんが宅急便の事業を始めるまで、ヤマト運輸の主力事業はBtoBの長距離輸送で、運輸業界では個人向けの貨物配送は絶対にもうからないと言われていました。しかし、宅急便の事業が損益分岐点を超えたのはスタートから約5年後。その後はどなたもが知るとおりです。

 もし当時、ChatGPTが存在して、当時の常識的なデータを学習させて宅急便の事業判断を仰いだとしたら、「うまくいきません」と回答したと思います。同業者たちが口にしていたとおり、当時の常識やデータから分析すれば、個人宅に荷物を個別配送する無駄の多いビジネスが成功するはずはなかった。

 しかし、その背後で社会は変化していて、運輸業界を取り巻くマクロなコンテクストも変曲点を迎えていました。

 1960年代から日本全国に高速道路網が整備されはじめ、高度経済成長の進展とともに地方から都市への人口移動が進んで、個人間の貨物配送のニーズが爆発的に増加しつつあった。こうした変化の兆しをつかんで、新たなビジネスモデルを築くのは、人間の経営者にしかできない仕事です。

布川友也
株式会社ログラス 代表取締役 執行役員CEO 布川友也氏
慶應義塾大学経済学部卒業後、2016年SMBC日興証券 投資銀行部門に入社。PE、総合商社によるM&Aや投資先IPOアドバイザリー業務を担当。その後、GameWith経営戦略室にてIR・投資・経営管理等を担当。2019年株式会社ログラスを創業、代表取締役に就任。経営管理クラウドサービス「Loglass 経営管理」等を開発・提供。

社会の変わり目をつかむのは「AI」か「ヒト」か

山口:実は私も似た経験があります。1995年、電通に勤めていた頃、当時担当していたソフトバンクの孫(正義)さんに「検索エンジンを作りたいから電通も出資してほしい」と相談されました。後のYahoo!ですね。

 私は「とんでもないチャンスだ」と大興奮して稟議(りんぎ)書を書いて役員会議でプレゼンテーションしましたが、3分ほどの審議で却下されました。当時の経営陣の一人が「ニューメディアってやつだろ?」と鼻で笑っていたのを覚えています。当時は4大媒体に代わるメディアが「ニューメディア」と呼ばれていて、電通は過去に何度も出資に失敗していました。電通のコンテクストを踏まえれば、インターネットには手を出さないのが得策でした。

 しかし、組織の外部のマクロなコンテクストは変曲点に差し掛かっていたわけですね。この変曲点をAIが察知するのは難しいわけですが、人間でもたやすくはないです。なので、今後はAIと人間の能力をいかに組み合わせて、マクロなコンテクストの動きを読んでいくのかが、重要な論点になるのではないかと思っています。

布川:ログラスのAI開発の課題も、実はそこにあります。過去のコンテクストをデータベースにため込むほど「凝り固まったAI」が出来上がってしまうリスクがあるのです。AIにどこまでの情報を学習させるべきか。それは非常に悩ましい問題だと思っています。

 最近、とあるメディアで目にしたのですが、今、海外の研究者の間には「LLMは相対性理論を導けるか」という議論があるようです。相対性理論は、アインシュタインが提唱した当時の理論物理学における常識を大きく覆すものでした。

 AI批判論者はその時点での学習内容にとらわれた出力しかできない以上、LLMには相対性理論は発想できないと言います。一方で、AI擁護論者は「前提を疑う」という指示をあらかじめ与えておけば可能だと言う。私としては、現時点のLLMには既存の学習内容を無視した出力を安定的にアウトプットさせるのはビジネス実務的には難しいように思うので、ことさらビジネスにおいて「社会のコンテクストの変曲点を察知するのは、やはり人間の仕事なのではないか」というのが現時点でのスタンスになります。

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コンサルタントはどのようにAIに代替されるのか

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この記事の著者

島袋 龍太(シマブクロ リュウタ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:株式会社ログラス

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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