SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

おすすめのイベント

日本企業発・イノベーションへの挑戦者

客室乗務員から社内起業家へ。ANAホールディングス渡海氏が語る、“顧客の声”が導いた事業拡大の裏側

ゲスト:ANAホールディングス 渡海朝子氏

  • Facebook
  • X

社内の事業でも講師は個人事業主。マルチキャリアを実現する“仕組み”とは

──一次選考通過後は、どのようなプロセスがあったのですか。

渡海:次の審査まで2ヵ月ほどしかない中で、「机上で考えていても仕方がない。まずは売ってみたら」とメンターに助言され、急遽6週間だけPoCを実施しました。英語やワインの資格を持つ社員などを客室センターで募り、30分程度のオンライン講座を6本ほど、既存のプラットフォームで販売したんです。

 すると受講者は200名を超え、お客様満足度は5段階評価で4.95という結果で、手応えを感じましたね。「旅をしているようなワクワクした気持ちを味わえた」といった温かいレビューも多く、何より講師となった社員たちが「新しい形でお客様に貢献できた」と喜んでくれたのが嬉しかったです。

──講師となる社員の勤務時間はどのように扱っていたのでしょうか。

渡海:当時は勤務時間の一部を講座に充ててもらっていました。乗務が少なかった分、客室センターでの待機時間を実証実験に割いてもらえたという意味では、コロナ禍が新規事業の追い風になった部分もあったといえます。

──「Da Vinci Camp」第1期生として選ばれた後の取り組みを教えてください。

渡海:客室センターから未来創造室に異動して、サービスの仕組み作りに奔走しました。講師集めやプラットフォーム選定、マニュアル作成、ブランドリスク管理など、いわば“タレント事務所”を立ち上げるような業務でしたね。

 PoC時から大きく変えたのは、勤務・報酬制度です。フライト数が戻るにつれ、社員の勤務時間の一部を講座に充てるのは難しくなり、スケールやマネタイズにも限界を感じたので、個人事業主として業務を請け負ってもらう形に変更しました。

 会社の事業でありながら講師が個人事業主として契約するという形態は珍しいですが、結果的にそれが「ANA Study Fly」の理念にも合っていましたね。人生100年時代のマルチキャリアを実現するのに、会社で給料をもらいながらやるのでは意味がない。自分で責任を持ってお客様に喜んでもらい、対価を得るからこそ、本人の成長や学び直しにつながりますから。

ANA Study Fly公式noteより
ANA Study Fly公式note

顧客の声からtoB展開。“ホスピタリティの延長”が生んだ「共創型研修」

──新規事業の立ち上げで苦労したことがあれば教えてください。

渡海:無知な自分が恥ずかしくて苦しみました。客室乗務員という、新規事業とはかけ離れた領域でキャリアを積んできたので、パワーポイントでの資料作成もプレゼンもしたことがなくて。しかも、当初のtoC事業だけではなかなか伸びず、どうすれば良いか悩みました。

──その苦しみはどう乗り越えたのでしょうか。

渡海:わからないことは、社員たちや社外で知り合った人たちが教えてくれました。また、お客様の「楽しかった」という声や、講師の「新しい一歩を踏み出せた」という言葉が心の支えになって。上空での「ありがとう」をやりがいにしていた客室乗務員時代と、モチベーションの本質は変わっていなかったのだと思います。

 toC事業で抱いていた課題を解決するきっかけはお客様でした。あるイベントに登壇した際、企業の人事担当者から「おもしろい取り組みですね。団体で受講できますか」と声をかけられたんです。また、手話講座の受講者がたまたま企業のDE&I担当者で、「研修として導入できますか」と相談をいただき、法人向けサービスを始めることにしました。

──戦略的にtoBに拡大したわけではなかったんですね。

渡海:そうですね。むしろ「困りごとに気づいたのでお手伝いします」という、ホスピタリティの延長でした。

 そして、法人の課題を聞き、講師を探し、講座を作るという繰り返しの中で、「共創型研修」という形にたどり着きました。専門的で一方通行な研修よりも、“参加者全員が仲良くなり、やる気になり、前向きになるワークショップ”の方が求められているとわかり、フライトクルーのように講師とサポーター複数名のチームで研修を行うスタイルに行き着いたんです。受講者アンケートの結果も良く、「旅するように学ぶ」という世界観への共感が多く見られました。

次のページ
社外の舞台が事業を加速。日本新規事業大賞がもたらした“直接的な成果”

この記事は参考になりましたか?

  • Facebook
  • X
日本企業発・イノベーションへの挑戦者連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

山田 奈緒美(ヤマダ ナオミ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

この記事は参考になりましたか?

この記事をシェア

  • Facebook
  • X

Special Contents

PR

Job Board

PR

おすすめ

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

アクセスランキング

アクセスランキング