カリスマ亡き後、「自分ごと化」への険しい道のり
銚子丸には元々、創業者が遺(のこ)した理念冊子「赤い手帳」があり、「読み合わせる」文化が根付いていた。だが時代が変わり、堀地氏は「赤い手帳の良さを残しつつ、現代に“翻訳する”必要が出てきた」と振り返る。
大きな転機は、2016年にカリスマ的な創業者・堀地速男氏が亡くなったことだ。トップダウンのけん引役が失われた。
2014年入社の石田氏と堀地氏らは、2017年に「新生銚子丸」を掲げ組織変革に着手。最大のテーマがトップダウンからの脱却、「自分ごと化」だった。
「指示されたことをやるだけでは考えなくなる。指示する人(創業者)が不在だと、何をすべきかわからない。そこで『自分ごとにする』ことが大事だと考え、心理的安全性の確保や『さん』付け呼称の導入を進めました」(銚子丸・石田氏)
最大の効果は激論を経たあとの「中間管理職」の変化
BIOTOPEとのプロジェクトは、「自分ごと化」を経営陣自らが実践する場となった。全経営陣によるディスカッションを6ヵ月で25回以上行い、10代から80代まで50名以上の従業員にインタビュー。「目に見えない価値」や現場の「創意工夫」を徹底的に掘り起こした。
金安氏は「苦心の末、皆さんが『腹決め』し、自分の言葉で経営を語っていた」と語るように、プロセスは順風満帆ではなかった。
「当社の部長・課長は寿司職人出身がほとんどです。『あなたの言葉でいいから、こういう会社にしたい、これがうちの特徴だと言ってくれ』と頼みました」(銚子丸・石田氏)
経営陣が激論を交わし、現場の声を吸い上げ、未来を紡ぎ、新たな理念体系「コンパスブック」と「ビジョンマップ」が完成した。
結果、創業以来の経営理念「私達の真心を提供し、お客さまの感謝と喜びをいただく」は意味を変えず、現代の言葉遣いに再翻訳。理念を体現するビジョンとして「地域に人情と活気あふれるおもてなしの舞台とする」が新たに据えられた。
組織文化変革の証左:「Timee」からの入社
組織文化変革は成果にも表れている。堀地氏は、スキマバイトアプリ「Timee」経由での入社エピソードを共有。Timee経験者が職場の雰囲気や理念に共感し、入社を希望するケースが生まれている。
「大手航空会社出身で接客のプロの方が、Timeeを経由して弊社での仕事を経験したあとで、『温かい会社だから一緒に働きたい』と正社員になってくれました」(銚子丸・堀地氏)
金安氏は、マニュアルによる統制ではなく、「社員の自律性や良さをお客さまに提供するインフラを作っている」証左だと分析した。
