人材不足と余剰を同時に解決する「スキルベース組織」
栗原:今回のメインテーマである「スキルベース組織」について掘り下げていきます。近年、日本でも「ジョブ型雇用」の導入が進む中で、なぜ今、その先の概念である「スキルベース」に注目が集まっているのでしょうか。
鵜澤:私はEYで日本、ASEAN、韓国を含むAsia Eastのピープル・コンサルティングを統括していますが、実はジョブ型雇用が定着している欧米の先進企業でも、揺り戻しのような現象が起きています。「ジョブ型の人事制度を導入・運用しているが、必ずしも人材が流動化せず、期待したようなスキルアップも進まない」という課題に直面しているのです。
「ジョブ(職務)」という定義は、実は人材を捉える粒度としては粗すぎる場合があります。ジョブディスクリプション(職務記述書)を作っても、実際の業務や必要な能力を完全に網羅することは難しく、変化の激しい現代ではすぐに陳腐化してしまいます。そこで、より細かい単位である「スキル」や「経験」というデータで人材を解像度高く捉えようという動きが、2、3年前から欧米を中心に活発化しています。
栗原:海外では具体的にどのような場面でスキルベースのアプローチが採られているのですか。
鵜澤:AIの影響も含め、世界的に「特定領域での深刻な人材不足」と「既存領域での人材余剰」が同時に発生しています。そこで海外では、主に採用(ハイアリング)の場面でスキルベースが活用されています。「学位や過去の職歴(ジョブタイトル)」ではなく、「具体的に何ができるか(スキル)」に焦点を当てることで、採用のミスマッチを減らし、候補者の層を広げる「スキルベース・ハイアリング」が主流になりつつあります。
若手の離職を防ぎ、配置転換を再定義する
栗原:一方で、解雇規制が厳しく、長期雇用が前提となる日本企業においては、スキルベース組織はどのような意味を持つのでしょうか。
鵜澤:日本の場合は、雇用の流動性が低いという背景があるため、主に「配置転換(リソーシング)」の文脈でスキルベースの重要性が高まっています。
事業ポートフォリオを転換すれば、当然ながら必要な人材ポートフォリオも変わります。かつて日本企業は、会社主導の強力なジョブローテーションによって、量的な人員調整を行ってきました。しかし現在は、若手社員を中心に「自律的なキャリア形成」が強く求められるようになり、会社の一方的な命令だけでは人が動かなくなっています。無理な異動は、離職リスクを高めるだけです。
栗原:会社側の「異動させたい」という意図と、個人側の「キャリアを選びたい」という意思をどうマッチングさせるかが課題ですね。
鵜澤:その通りです。会社側が「こういう質の高い人材が欲しい」と考え、従業員側が「自分のキャリアのためにこういう仕事を経験したい」と考えたとき、両者をつなぐ共通言語となるのが「スキル」です。
「あなたの持っているこのスキルは、こちらの新規事業で高く評価される」「このスキルを習得すれば、希望する部署への道が開ける」といった対話が可能になれば、納得感のある配置転換や、リスキリングを通じた人材流動化が実現できます。日本企業が硬直的な組織から脱却し、内部労働市場を活性化させるための鍵が、スキルベースへの移行なのです。
