HRBPが事業部長と対等に渡り合う武器

栗原:組織の在り方が変わる中で、人事部門、特にHRBP(HRビジネスパートナー)の役割も変化を迫られていると思います。
鵜澤:人事組織のモデルとして、デイビッド・ウルリッチ氏が提唱した「3ピラーモデル(3つの柱)[1]」が有名です。給与計算などの「オペレーション」、報酬や採用の専門家集団である「CoE(センター・オブ・エクセレンス)」、そして事業部門に入り込んで課題解決を行う「HRBP」の3つです。
これからの時代、オペレーション業務の多くはAIやBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)に置き換わります。また、制度設計やルールの知識を提供するCoEの役割も、AIが即座に回答を出せるようになることで相対的に価値が縮小していくでしょう。
一方で、重要性が飛躍的に高まるのがHRBPです。個別の事業課題や組織の問題解決は、その時点での複雑な状況や人間の感情が絡むため、AIだけでは完結できないからです。
栗原:事業部門のトップと対等に渡り合い、組織課題を解決するために、HRBPには何が必要でしょうか。
鵜澤:事業部長などのビジネスリーダーは、豊富な経験と現場勘を持っています。その相手と対等に議論し、意思決定を支援するための武器が「データ」です。これまでの「離職率」や「エンゲージメントスコア」といったデータに加え、今後は「スキルデータ」が極めて重要になります。
「将来の事業戦略を実現するためには、この部署にデジタルマーケティングのスキルを持った人材がこれだけ不足する」「実は隣の部署にいるこの人のスキルが、今回のプロジェクトで活きる可能性がある」──。こうした具体的な指南を、鮮度の高いスキルデータに基づき行う。それがこれからのHRBPの役割であり、スキルベース組織を推進するキーパーソンになると考えています。
[1]3ピラーモデル(オペレーション、CoE、HRBP):現代の企業における「戦略的人事組織」のフレームワークのこと。1990年代にアメリカの経営学者デイビッド・ウルリッチ(Dave Ulrich)氏が提唱したことから、「ウルリッチ・モデル」とも呼ばれている。
経営企画・人事・財務の「三位一体」改革
栗原:データを駆使して事業の意思決定を支援するという点では、ファイナンス部門におけるFP&A(ファイナンシャル・プランニング&アナリシス)の役割とも重なりますね。
鵜澤:非常によい視点です。FP&Aもまた、単なる会計処理(オペレーション)ではなく、事業の予測やプランニングを行い、複数のシナリオ(ベストシナリオ、ワーストシナリオなど)を提示して経営判断を支援する役割を担っています。
現代の経営において必要なのは、事業の大きな絵(ストラテジー)を描く「経営企画」、それを人の側面(ピープル)から実行プランに落とす「人事(HRBP)」、そして数字の観点(ファイナンス)から支える「財務(FP&A)」の連携です。
私はこれを「三位一体」と呼んでいますが、変化の激しい時代には、この3つの機能がバラバラに動いていては勝てません。実際に、先進的な企業では経営企画出身者がCHRO(最高人事責任者)に就任したり、財務部門と人事部門で人材交流を行ったりするケースが増えています。スキルベース組織への変革も、人事単独の施策ではなく、経営戦略と財務戦略にひもづいた全社的なアジェンダとして推進する必要があります。
