P/L偏重からROICとキャッシュ・フロー重視へ
池側:現在進行中の「中期経営計画2027」では、非常に高い成長目標が掲げられています。この計画を達成するために、FP&A組織にはどのようなミッションが与えられているのでしょうか。
土家:基本方針として「投資成果の創出」と「構造転換による資本効率の改善」を掲げています。FP&Aの最大のミッションは、これらを数字で可視化し、適切な「事業ポートフォリオの評価」を行うことです。
かつての旭化成はP/L(損益計算書)の営業利益を重視する傾向がありましたが、現在はP/L に加え、ROIC(投下資本利益率)とキャッシュ・フローを軸にした管理モデルへシフトしています。特に、ROICがWACC(加重平均資本コスト)を継続的に下回っているような低資本効率の事業に対しては、事実としての数字を提示しながら、構造転換を含めた議論を促す役割を担っています。
池側:「構造転換」といえば、ケミカル事業の大胆な再編が話題になっていますね。
木住野:はい。かつてはグループの稼ぎ頭だったケミカル事業ですが、中国市場の変調などにより環境が激変しました。私たちは、ROICや市場成長率をベースに全事業をプロットし、どの事業が「重点成長」で、どの事業が「構造転換」すべきかを明確に区分しています。
エチレンセンターの他社との提携やキャパシティ削減などは、まさにその成果です。「ざっくり調子が悪い」で済ませるのではなく、外的要因なのか内的要因なのかをデータで解剖し、退くべき時は退くという決断をFP&Aが支えています。
投資を成功に導く、経営企画と事業管理の連携
池側:成長分野への多額の投資については、どのようにコントロールされているのでしょうか。
土家:経営企画部には、全社の予算単位の投資データが集約されるシステムがあります。新しい投資を行う際には、戦略企画部署と連携し、「本当にこのリターンは現実的か」というディスカッションを事前に行います。特に今回の中計では、ハードル・レート(投資判断の最低基準)の運用を強化し、投資判断の高度化を図っています。

池側:投資を「やりっぱなし」にしないための工夫はありますか。
佐藤:投資後のモニタリング、いわゆる「振り返り」に力を入れています。事業側の将来計画は、前向きな仮定に寄りやすい面があります。私たちは事業管理として、客観的な第三者の立場から「この事業計画の前提は本当に妥当か」を問い続けます。
単に数字を計算するだけでなく、事業部長に対して「このシナリオが崩れた時のリカバリー策は何か」と迫る。この泥臭い対話こそが、P/L、B/S、C/Fを統合管理するということの実態だと考えています。
木住野:投資成果の「刈り取り」を確実にするには、結局のところ、現場の事業管理がどれだけ事業にコミットしているかにかかっています。経営企画が上から見る「マクロの視点」と、事業管理が横から見る「ミクロの視点」。この両輪で投資の規律を守っています。

