M&A急拡大の裏側でFP&Aが直面する「異文化統合」の壁
池側:近年、ヘルスケアや住宅領域では、米国のZOLL Medical(ゾール・メディカル)やスウェーデンのCalliditas Therapeutics(カリディタス)など、海外での大型M&Aが相次いでいます。こうした買収先のFP&A機能との統合は、どのように進めているのでしょうか。
木住野:正直に申し上げて、そこは現在進行形の大きな課題です。マテリアル領域は自前で組織を築いてきましたが、住宅やヘルスケアは買収によって突如として異文化の事業が入ってきた形です。
彼らの経理組織からグループCFO組織への直接のレポーティングラインはまだ弱く、人材交流もこれからです。3ヶ月に1回の連結決算データは集まりますが、月次の予測精度や指標の考え方にはまだバラツキがあります。「旭化成グループとして同じ物差しで語る」ための統合を、まさに今、経営企画と連携して進めているところです。
池側:海外企業には、旭化成の「事業管理」のような文化をどう伝えていくのでしょうか。
木住野:買収先の経営スタイルを尊重しつつ、最低限の「旭化成ルール」は明文化して守ってもらう。その上で、追加投資に関してはグループCFOが厳しい目で見る。
ただ、最も重要なのは「人」のつながりです。日本の事業会社であれば経理部長会などで頻繁に情報共有ができますが、海外拠点ともそうしたプラットフォームを作りたい。彼らが持つ先進的なFP&Aの手法を私たちが学ぶ場面も多々あります。双方向の学びを通じて、グループとしての「神経網」を広げていく必要があります。
現場を動かす「数字の翻訳家」としての役割
池側:事業ポートフォリオの転換、特に「撤退」をともなう判断は、現場の抵抗も大きいと思います。佐藤さんは事業管理の現場で、どのように意思決定を支援しているのですか。
佐藤:単に「数字が悪いからダメです」と言うだけでは、事業部は納得しませんし、生産的な議論になりません。私たちが心がけているのは、常に「複数シナリオ」を提示することです。
たとえば、ある拠点の収益が低迷している場合、「稼働継続」「拠点縮小」「完全撤退」の3つのパターンで、将来キャッシュ・フローの見積もりを並べて見せます。そうすると、「稼働を続けるにはこれだけの改善が必要だ」「このケースであればこんな打ち手がある」「撤退するならこのタイミングがベストだ」と、議論が建設的な方向に動き出します。

池側:現場を動かす「数字の翻訳家」としての役割ですね。
佐藤:はい。ROICという言葉を出すだけでなく、「在庫をこれだけ減らせば、あなたの事業のROICはこれだけ上がる」と、現場の具体的な行動と成果を直結させて示します。
今年度から、マテリアル領域では「事業管理室」が「事業管理部」へと再編され、よりバックアップ体制が強化されました。若手メンバーにも、単なる集計屋ではなく、事業部側から「あなたがいなければ会議が始まらない」と言われるような存在を目指してほしいと伝えています。
