イノベーションを生む「組織とマインド」の変革
結局のところ、最大の難所は戦略的リターンの定義でも、財務的な自立を支える外部パートナーの確保でもなく、活動を根底で支える組織のマインドセットを変えることです。
組織が覚悟を求められる主なポイントは以下の通りです。
組織構造と意思決定
組織構造
CVCの成果に誰が責任を持つのかを決める必要があります。経営企画部門の下に置くのか、投資部門が担うのか、それともCVCを完全に独立した組織とするのか。いずれを選ぶかによって、優先される業績目標も変わってきます。
機動的な意思決定
投資の承認に何カ月もかかっていると、シリコンバレーの最良の企業に出資する機会を逃してしまうため、機動的な意思決定プロセスを構築する必要があります。従来の「合意形成型」ではなく、たとえ居心地が悪くとも、目の前にある情報に基づいた決断ができなければなりません。
約束を守る
シリコンバレーは村社会的に成り立っているため、評判が何より重要となります。スタートアップとの共創や顧客になることを約束しておきながら、社内政治や国内スタートアップとの利益相反を理由に出資後の約束を果たさなければ、優良なディールへのアクセスを失います。そのため、CVCは主要な事業部門と緊密に連携していなければなりません。
KPIと時間軸
CVC活動には別の評価指標(KPI)が求められます。投資ステージが早期であるほど、スタートアップが成熟するまでに時間がかかります。つまり、次の中期経営計画を策定する時期になっても、目立った成果が出ていない可能性が高く、その状況を許容できるかが重要です。
マインドセット
リスク許容度
ベンチャー投資は変動が激しいため、失敗の可能性を受け入れ、目標達成が見込めないと判断したら、撤退や活動終了に踏み切る覚悟を持たなければなりません。ゾンビ的にCVCを延命させたとしても、資源を浪費するだけで終わってしまいます。
適応力とオープンマインド
イノベーションの最前線に立つことで、現在の組織が抱える構造上・ビジネスモデル上の欠陥が明らかになることがあります。こうした気づきを脅威とみなすのではなく、学び、改善するための機会として捉えるべきです。
人材マネジメント
人材配置
CVC活動に充てる人材は、自社の優先順位を理解し、リスクを取る意思を持ち、新しい発想に対してオープンでなければなりません。多くの場合、それは社内の最も優秀な人材を意味します。最も収益を生む優秀な社員を、失敗するかもしれないプロジェクトに移す覚悟があるかを見極める必要があります。
キャリア形成
シリコンバレーで投資家やスタートアップのネットワークを築くには、少なくとも3〜5年を要します。したがって、人材を安易にローテーションさせるべきではありません。社員をシリコンバレーに長く留めるつもりなら、本人がキャリアの停滞を感じないよう配慮すると同時に、本社の社員が「駐在員ばかり優遇されている」と感じないようにする必要があります。
報酬
戦略的リターンと財務的リターンをどのようにバランスさせるかに応じて、報酬も調整する必要があります。財務的リターンに大きく軸足を置くなら、一般的な企業の基本給では適切な人材を惹きつけることも、引き留めることもできません。
退職リスク
刺激的でやりがいのある環境に身を置くことで、社員は大きく成長します。その結果、新たなステージを求めて会社を去る決断をする社員も出てくるかもしれません。シリコンバレー経験を積んだ人材を失うリスクについては予め想定しておく必要があります。シリコンバレーで経験を積んだ人材を失うリスクを受け入れることができるかを予め想定しておく必要があります。
こうしたポイントを一つずつ検討していくと、つい及び腰になってしまうかもしれません。しかし、実際には全ての企業がシリコンバレーにCVCやイノベーション拠点を必要とするわけではなく、また一部の社内構造や企業マインドセットを変えるだけでは、目標を達成することができません。
一方、学び、適応する意思を持つ組織にとって、イノベーションは新たな機会の扉を開きます。そこに至るには、相当な努力と組織構造の調整、居心地の悪さに対する高い耐性が求められます。率直に言えば、私たちは「CVCを始めること自体はたやすく、成功させることは難しい」ことを肝に銘じて始める必要があります。
しかし、明確な目的と覚悟を持ってこの挑戦に向き合う企業にとって、シリコンバレーでのCVC活動は、必ずや自社の未来を切り拓く強力な武器となるはずです。
