生成AIの台頭から数年、多くの日本企業がPoC(概念実証)や部分的な業務のAI化に取り組んできた。しかし、基幹業務の本格的な自動化や財務インパクトの創出においては、依然として大きな壁が立ちそびえている。こうした状況に対し、SAPジャパンは2026年7月21日、プレスセミナーを開催。AIが自ら判断して業務を遂行する新たな変革ビジョン「Autonomous Enterprise(自律型エンタープライズ)」を発表した。本レポートでは、同社の本名進氏と織田新一氏の講演を通じ、基幹業務において「精度100%」を目指すためのAIプラットフォーム構造や、人間とAIエージェントが協働する新たな組織像について紐解いていく。
AIが業務を自律駆動する「Autonomous Enterprise」の全貌
「基幹業務において、精度80%のAIは使い物になりません」
そう言い切るのは、SAPジャパンでAIビジネスリードを務める本名進氏だ。たとえば決算業務において、AIの処理精度が80%にとどまるのであれば、残りの20%を人間が過度に確認・補正しなければならず、実業務への適用は難しくなる。SAPが新たに掲げたビジョン「Autonomous Enterprise」は、ERP(統合基幹業務システム)に蓄積された膨大なデータを基に、精度100%を目指して信頼性を極限まで高めたAIエージェントと人間が協働する世界を目指すものだ。
従来、AI活用がPoCで停滞していた主な要因について、本名氏は以下の3点を挙げる。
- ビジネスコンテキストの欠如:AIに業務プロセスや業界固有のルール・文脈を与えられていないこと
- データの断絶:業務ごとにシステムが分断され、AIがデータ間の関係性を認識できないこと
- ガバナンスと信頼性の不足:自律的に動くAIエージェントの権限や行動範囲を制限・管理する基盤がないこと
これらを解消する核として発表されたのが、「SAP Business AI Platform」である。同プラットフォームは、SAPが50年以上にわたり培ってきたERPのデータ構造とプロセス知見をAIに組み込み、基幹業務における高度な推論と信頼性を担保する。
【SAP Business AI Platform の3つの柱】
1:コンテキスト・推論(SAP Knowledge Graph / RPT-1.5)
- 700万以上のデータ項目と業務プロセスをマッピング
- 表形式の構造化データに特化した予測・推論
2:ガバナンス(SAP AI Agent Hub / Company Memory)
- 全社のAI資産を一元管理・可視化
- 暗黙知や業務ルールをAIのガードレールとして定義
3:開発(Joule Studio)
- 「実現したい意図」を伝えるインテントベース開発
信頼性を支える技術基盤:Knowledge Graphとデータガバナンス
本名氏はデモンストレーションを通じ、キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC:資金循環期間)が悪化した際のAIの動きを実演した。AIが財務データのみならず、在庫や販売、さらには外部の気象データまで横断的に分析し、マニラでの早まった雨期に伴うエアコン販売不振を特定。セブ島への在庫移動という具体的な打開策を提示し、在庫管理者の承認を経て自律的に在庫転送オーダーまで作成するプロセスが示された。
「汎用AIに『CCCを教えて』と聞いても、抽出された会計データしか見えません。SAPのAIは、リアルタイムでロジスティクスや販売のデータ、そして自社の業務ルールを理解した上で原因特定とアクションまで提案します」と本名氏は強調する。
この高度な推論を支えるのが「SAP Knowledge Graph」である。ERP内の20万におよぶテーブルと約700万項目のデータ、そして数千の業務プロセスをマッピングした「業務の地図」として機能し、AIが迷わずに正確なデータへ到達することを可能にしている。
さらに、ガバナンス面では「SAP LeanIX」を基盤とした「SAP AI Agent Hub」を提供。社内で動くAIエージェントのリスク評価や検証状態を一元管理する他、「SAP Signavio」を活用した「Company Memory」により、暗黙知や社内ポリシーを業務プロセスの末端にバインドし、AIが企業のルールを越脱しないガードレールを構築している。
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