AI時代の経営企画に求められる「構造化」と「動的協働」
栗原:世界の構造と人々の意識の解像度が上がると、企業の意思決定や経営企画の役割も大きく変わってきそうですね。
安川:まさにそこがポイントです。従来の予測型の中計は、世界が単一のスケールで統合され、単一のインジケーターで測定できるという甘い前提に立っていました。しかし、先ほどお話ししたように世界は「統合化(脱魔術化)」と「分散化(最魔術化)」に引き裂かれ、人々の意識も「記号化」と「多元化」の間で複雑に揺れ動いています。
このような時代において、経営企画部門がやるべきなのは、過去のデータの延長線上で数値の穴埋めをすることではありません。「自社を取り巻く社会や市場において、どのような構造変化と意識の変容が起きているのか」という全体像を提示し、変化に応じて柔軟に戦略を書き換えていく「能動的推論」の実践です。
特に、AIエージェントが高度化するこれからの時代、定型的な需要予測やデータ分析、綺麗なスライドの作成といった作業は、ほぼ自動化されていきます。AIが得意とするのは「過去データのパターン認識と最適化(予測)」です。
特に、AIエージェントが高度化するこれからの時代、定型的な需要予測やデータ分析、綺麗なスライドの作成といった作業は、ほぼ自動化されていきます。AIが得意とするのは「過去データのパターン認識と最適化(予測)」です。しかし、構造そのものが壊れて再定義される転換期においては、データに現れない「予兆」を捉え、その裏にある新しい構造を構想する「人間知性(HI)」こそが不可欠になります。他者や自らの内側にある「多元性(分人)」を理解し、複雑な現実と動的に向き合いながら部分的な協働を組み上げていく能力が、これからのリーダーに求められるのです。

大企業のミドル・経営企画へ──AI時代に求められる「気概(テイモス)」
栗原:AIによってルーティンワークや分析業務が自動化された時、経営企画やビジネスパーソンには最終的に何が残るのでしょうか。
安川:懸念すべきは「身体知」の欠如です。若手が下調べをし、議事録やレポートを書いて上司に揉まれる中で培ってきた「思考の筋肉」を、すべてAIに丸投げしてしまうと、10年後に組織の思考力そのものが空洞化するリスクがあります。AIへの「依存」と、自らの能力の「拡張」のせめぎ合いを意識しなければなりません。
栗原:最後に、不確実な時代の中で苦闘している大企業の経営企画やミドル層の方々へ、メッセージをお願いします。
安川:最適化やデータの穴埋め、調整業務といった作業は、すべてAIエージェントに置き換わっていきます。だからこそ最終的に問われるのは、古代ギリシャ哲学でいう「テイモス(気概/Thymos)」です。「自分はこの事業を通じて、どんな未来を創りたいのか」「1回きりの人生や会社において、何を成し遂げたいのか」という当事者としての主観的な情熱と強い問いです。
私はかつて一橋大学のゼミで野中郁次郎先生に学びましたが、先生のSECIモデルが示すように、個人の暗黙知や情熱(アート)を科学的な客観性(サイエンス)と往復させ、対話を重ねることで組織の形式知へと高めていくことが改めて現代において重要性が増しているように感じています。AIという強力な道具を手に入れた今だからこそ、冷めた予測屋になるのをやめ、自らの気概を持って望ましい未来を創る「未来思考のプラクティショナー」として踏み出してほしいと思います。



