人事視点で見抜いた危機感──現場の雑務に埋もれる専門人材の救済
池側千絵氏(以下、池側):三宅さんは新日本製鐵(現・日本製鉄)の新規事業部門からキャリアをスタートされ、NSSOLの立ち上げや上場準備、さらには本社と子会社で人事部長を通算7年間も務められたという異色の経歴をお持ちです。人事の目線から見た経理組織の課題と、FP&A組織の立ち上げに至った背景からお聞かせください。
三宅秀樹氏(以下、三宅):私はキャリアの中で、ジョブ型雇用制度の導入や役員報酬制度の改定といった、経理や税務の知識を多分に必要とする人事制度の構築に携わってきました。その後、3年前に財務部長に着任した際、強い危機感を覚えたのが「各事業部門に所属していた収益管理担当者たちのキャリア」です。
当時のNSSOLは長年、事業部制をとっており、各事業部門の中に独自の管理組織を抱えていました。しかし現場の管理組織は、決算や収益管理だけでなく、人事、総務、購買、さらには雑務までをすべてこなす「何でも屋」状態に陥っていたのです。気が利き、優秀なメンバーであればあるほど、目の前の現場業務に埋没してしまい、財務・会計のプロフェッショナルとしての市場価値を高めるような体系的なキャリア形成ができていませんでした。
また、組織が事業部ごとにサイロ化していたため、コーポレートの動きや財務戦略の全体像がまったく見えない環境にありました。彼らが誇りを持って他社のプロフェッショナルと対等に渡り合えるようにしたい。そのためにはメンバーに明確なキャリアパスを示す必要があると考え、欧米で財務の中核を担う「FP&A」の概念を導入しようと決意しました。
1994年新日本製鉄(現・日本製鉄)入社。製鉄所での現場研修などを経て新規事業部門へ配属。2001年の日鉄ソリューションズ立ち上げ、翌年の東証一部上場に向けた会計ルール・システム構築を主導。その後、総務部や人事本部(人事部長を7年間)を経験し、ジョブ型雇用制度の導入や役員報酬制度改定などを牽引。事業現場や日立製作所との合弁企業への出向を経て、3年前(財務部統合の直前)より現職。日本証券アナリスト協会認定アナリスト。
「マトリックス組織」の曖昧さを排除し、CFOラインへの完全集約に踏み切る
池側:2024年の初頭に最初にご相談をいただいた際、私は「組織構造とレポートライン、そして権限を明確に整備しなければ、どれだけ研修や勉強会を行っても、現場の行動特性は変えられない」と率直にお伝えしました。そこから非常にスピーディーに組織改革を実行されましたね。
三宅:ええ、組織のあり方については真剣に悩み、いくつかの選択肢を検討しました。これまでどおり事業部につけっぱなしにする方法、あるいは事業部と財務部の両方にレポートラインを持つマトリックス組織にする方法、そして本社のCFOライン(財務部)へ一本化する方法です。
マトリックス組織は一見バランスが良いですが、責任や判断が曖昧になりがちです。当社が当時陥っていたやや内向きな状況や、中期経営計画で掲げた「収益性の格段の向上」を達成するためには、ドラスティックな変革が不可欠だと判断しました。
そこで、メリット・デメリットをすべて承知の上で、2025年4月に事業部の管理組織をすべて解体し、人事権も含めて本社財務部に完全集約するという選択に踏み切りました。
池側:実際に事業部の現場で管理組織を率いていた矢野さんは、この大改革をどのように受け止めていましたか。
矢野晋也氏(以下、矢野):私自身、コーポレートの財務部と事業部の管理部(産業事業部門や鉄鋼ソリューションなど)を何度も往復するキャリアを歩んできましたが、確かに以前は「本社と事業部の壁」というものが明確に存在していました。何か大きな方針を決めるのは全社(本社)の仕事であり、事業部側はそれを待って受け取るだけという、どこか受け身の姿勢が否めなかったのが実態です。
しかし、2025年4月に財務部へ正式に統合され、さらに現在の「収益管理室(事業FP&Aグループ)」へと組織が洗練されていく中で、事業部側のスタッフであっても「全社の視点に立ち、資本市場や経営層と同じ物差しで物事を考えて提案する」というように、メンバーの意識が明らかに前向きに変わってきたと感じています。
旧・新日本製鐵の新規事業部門への配属を振り出しに、一貫して経理・財務畑を中心にキャリアを歩む。本社財務部での予算担当・決算担当の経験に加え、製造業向けの「産業事業部門」に2回、親会社向けの「鉄鋼ソリューション」に1回など、事業部側の管理部門(経理、購買、人事、総務など多能工的な何でも屋)を豊富に経験。2025年の全社機能統合に伴い事業部から財務部へ吸収され、2026年4月の本格組織化により現職として4つの主要事業部門のFP&Aを横串で統括・マネジメントしている。



