CGコード改訂の前提:形式的なコンプライから実質的なコンプライ・オア・エクスプレインへ
Biz/Zine編集部 栗原茂(以下、栗原):2026年7月末に施行されたCGコード改訂は5年ぶり3度目となります。まず今回の改訂が行われた背景とメインメッセージについて、小山さんが感じられているリアルな問題意識からお聞かせいただけますか。
小山陽平氏(以下、小山):まず「コンプライ・オア・エクスプレイン(遵守か、説明か)」という枠組みの本質を理解する必要があります。コードは法律ではありませんが東証の上場規程に基づき、プライム・スタンダード市場では全原則について、実施しない場合にその理由を説明することが求められます。重要なのは、原則を実施しないこと自体ではなく、その理由を合理的に説明できるかです。
大切なのは、原則を実施しないこと自体が直ちに違反となるわけではない点です。実施しない場合には、その理由を十分に説明することが求められます。成長戦略に照らして合理的な理由があるなら、正面から説明した上で実施しない選択肢が認められています。ところが従来の実務では説明の手間を嫌い、実態が伴わなくても形式的に「実施している」とチェック欄を埋める対応に傾きやすい面がありました。今回の改訂が「形式から実質へ」を掲げるのは、この形骸化に対する強い危惧があるからです。
デロイト トーマツ コンサルティング、KPMGマネジメントコンサルティング、ベイカレント・コンサルティングにて金融機関のPMI・システム統合PMOや企業変革支援に従事。その後、日本ヒルティにてFinance Controller、営業責任者、サービスセンター長を歴任。工機ホールディングスジャパン常務執行役員として国内サービス改革・マーケティングを管掌し、グループ会社取締役等を経験。大手コンサルティングファームでパートナーとして経営戦略・業務改革を支援した後、株式会社カタリスに参画。現職。国際基督教大学卒業。
栗原:形式的な対応を排除し、真に企業価値を高めるガバナンスへ舵を切ったわけですね。最大の潮目の変化はどこにありますか。
小山:規律の構造を根底から変えた点です。これまでは項目が増え続ける方向でしたが、今回はコンプライ・オア・エクスプレインの対象を「基本原則」と「原則」のみに絞り込みました。
具体的には、改訂前は5つの基本原則、31の原則、47の補充原則の計83項目だった対象が、改訂後は4つの基本原則と26の原則の計30項目へと整理されました。補充原則を再編・削除し、具体的な記述の多くを新設の「解釈指針」に移した形です。
これは決して規律の緩和ではありません。原則がより抽象的・本質的になったことで、従来の箇条書きチェックが通用しなくなったことを意味します。「どう書けば形式を満たせるか」から「自社は実際にどのような議論をし、何を遂行しているのか」を自らの言葉で語る時代へ移ったということです。
カタリスが整理する、改訂コードの「3つの主要な柱」
栗原:今回の改訂内容は、実務上どのように整理して理解すればよいでしょうか。
小山:大きく「3つの柱」で整理できます。
第1の柱は「有価証券報告書の株主総会前開示[原則1-2]」であり、有価証券報告書の総会前提出を、株主が十分な情報を持って議決権を行使するための重要な環境整備として原則に明記しています。
第2の柱は「経営資源の配分(成長投資の促進)[原則4-1、原則4-2]」であり、成長の道筋や事業ポートフォリオ見直しの具体策の説明を求めるとともに、現預金や実物資産も含めた資源配分の「不断の検証」を新設しました。
第3の柱は「取締役会の機能強化[原則4-8〜4-14、原則4-14解釈指針]」であり、独立社外取締役の質・数の確保や他社での経営経験者の導入に加え、これを支える「取締役会事務局」の能動的な運営機能を位置づけています。
栗原:リスク管理やサステナビリティに関する議論も、この3つの柱に含まれてくるわけですね。
小山:そのとおりです。第3の柱の中には、地政学リスクやサイバーセキュリティなどの「リスク管理の現代化(原則4-4)」が含まれます。また、多様性確保(原則2-2)やサステナビリティ基本方針の策定(原則4-5)も、ステークホルダーとの協働や取締役会の監督機能の一環として強く紐付いています。



