大企業で「経営企画」が新規事業を管掌する必然性と9つの領域
Biz/Zine編集部・栗原(以下、栗原):近年、大企業において経営企画の責任者やエース級の人材が「新規事業」を直接管掌するケースが増えているように感じます。昔の新規事業担当者は一匹狼で尖った「野武士」タイプのような方ばかりでしたが、非常にスマートで王道を歩んできた方が担当される場面も目立ちます。現在の新規事業の現場ではどのような変化が起きているのでしょうか。
井上伸也氏(以下、井上):まさに「ど真ん中」の状況だと感じています。たとえば、私が現在ご支援している大手金融機関でも、営業やマーケティングを経て経営企画部長になられたスマートな方が、直接新規事業領域を管掌されています。
相変わらず現場を突破する「野武士」的な人物の勘どころも重要ですが、ロジカルな方が経営企画から新規事業を牽引するケースは明らかに増えています。経営企画の役割は「戦略」「組織」「インキュベーション」「経営計画」「業績指標管理」など大きく9つの領域に体系化されますが、その最大の関心事は「不確実性とどう向き合い、コントロールするか」にあります。
大企業の経営企画は中期経営計画などの「5:経営計画/事業計画」や予実管理などの「8:経営管理」にリソースが偏りがちですが、これは多種多様なアジェンダを抱える中で、経営企画のリソースに優先順位付けをする意味で非常に適正なことではあります。ただし、計画の精度を上げるには戦略や新規事業などのインキュベーションへどのように臨むかが分岐点となり、企業の不確実性をコントロールする手法として経営企画が新規事業を直接リードする必然性が高まっているのです。
新卒で株式会社リクルートに入社後、初期のGoogle日本法人にて事業戦略に従事。慶應義塾大学大学院(MBA)修了後に起業を経て、株式会社ミクシィの経営企画としてターンアラウンドを推進。その後、ランサーズ株式会社で経営企画機能を立ち上げ、合同会社DMM.comでは社長室にて事業支援および新規事業部の事業部長を兼務。現在は株式会社DriveForce(2026年3月にディグル株式会社へM&Aにてグループイン)代表として、数多くの大手企業やメガベンチャーの経営企画支援・コンサルティングを行っている。
承認と社内政治の壁を突破し、担当者の擁護者へ
栗原:新規事業開発の専門部署が存在する企業も多い中で、なぜ経営企画が新規事業を担うことが成功の鍵になるのでしょうか。
井上:最大の理由は「経営承認を取る難易度が非常に高いから」です。新規事業を立ち上げる際、経営者がどんな軸や基準で投資判断をしているのか、その「投資ロジック」を最も深く理解しているのが経営企画です。経営企画が関与することで、経営者の期待に沿ったロジックで説得できるようになります。起案者にとっても「経営企画を味方につければ、承認を得るための重要ポイントが事前にわかる」という大きな安心感があります。
もう一つの大きな理由は「社内政治とリソース調達」です。アイデア出しや計画作成までは一人でも進められますが、実際にチームを組み、社内のエース人材やリソースを集めようとすると、起案者個人では事業部長や役員を口説ききれず頓挫してしまうケースが多発します。社内政治を動かし、経営陣を巻き込んで必要なリソースを力強く引っ張ってこられる点こそ、経営企画の最大の強みなのです。
そして何より、経営企画は新規事業担当者の「擁護者(スポンサー)」になる必要があります。大企業では既存事業にリソースを割く方が理にかなっているため、新規事業は「自分たちの稼いだキャッシュをドブに捨てるのか」と思われがちで、担当者は強い孤立感と戦っています。大企業で経営企画が新規事業担当を管掌すべきと考える大きな要因は、担当者が集中できる「心理的安全性」の確保がしやすい職能となるからです。



