SOMPO HD 広瀬執行役員と語る、過去最高益に貢献した強い「FP&Aとグループ本社」のつくり方
登壇者:SOMPOホールディングス株式会社 広瀬杏太郎氏、FP&Aアドバイザー 池側千絵氏
2026年10月8日、「Biz/Zine Day 2026 Autumn」がオンライン配信で開催された。「強いFP&A組織と強いグループ本社のつくり方」をテーマとしたクロージング講演では、SOMPOホールディングス(以下、SOMPO HD)執行役員 経営企画部長の広瀬杏太郎氏と、ストラットコンサルティング代表でFP&Aアドバイザーの池側千絵氏が登壇。不祥事を端緒としたグループ管理体制の抜本的見直しから、欧米の専門性と日本の規律を融合させた「SOMPO型ハイブリッドFP&A」の構築、さらに再保険最適化やデータ構造化による具体的な利益貢献に至るまで、持株会社としての監督機能と事業成長支援を両立させるファイナンス変革の実践知が惜しみなく明かされた。日本企業がFP&A(Financial Planning & Analysis)を最速で定着させ、企業価値を高めるための未来地図をひも解く。
持株会社の危機感から始まった「監督と支援」の両立
近年、持株会社体制(ホールディングス制)を採用する日本企業が増加している。しかし、グループ傘下の事業会社に大きな経営権限や裁量を委ねる一方で、持株会社によるガバナンスや統制(モニタリング)機能が形骸化し、グループ全体の経営管理が不十分に陥るケースは少なくない。持株会社としていかに監督機能を強めつつ、同時に事業会社の成長を支援していくのか。この課題に真っ向から挑んだのが、SOMPO HDである。
同社は2度の保険業界再編を経て、損害保険ジャパンと日本興亜損害保険が統合し、2010年に持株会社体制を発足させた。国内外のP&C事業(Property & Casualty:損害保険)をはじめ、国内生保、さらには介護事業を含むウェルビーイング事業などさまざまなポートフォリオを展開し、連結保険収益は5兆円を超える巨大グループである。
同社の前中期経営計画(~2023年度)までは、事業会社側に経営の自由度を与える「遠心力」を働かせる方針であった。その結果、海外M&Aの成功によりグループ利益の60%超を海外事業で稼ぎ出す体制を築き、介護事業への進出による事業多角化を成功させるなど大きな成果を生んだ。しかし、その裏で大規模な不祥事が発生し、持株会社として金融庁から業務改善命令を受けるという厳しい状況に直面する。
「『持株会社として事業会社をいかに経営管理・監督しているのか』という厳しいご指摘をいただきました。これが、定量的な観点から事業監督を大幅に強化すべく、FP&A機能を本格的に立ち上げる大きなきっかけとなったのです」と広瀬杏太郎氏は振り返る。
この反省を受け、同社は持株会社の定義を再設定した。売上を直接生み出さない持株会社は本質的にコストセンターであると自覚したうえで、「小さな本社、しかし強靱(リーン)な持株会社」を目指すべき姿に定めた。資本配分、IR、トップ人事、そしてグループ全体の事業管理を担うFP&Aという持株会社ならではの重要機能に特化し、組織変革を開始したのである。
2002年に日本興亜損害保険(現損保ジャパン)へ入社。国内損害保険営業(個人分野・企業分野)を約9年経験。その後、海外子会社管理業務、海外M&A、海外グループ会社への出向など海外保険事業の幅広い分野に携わる。2024年に SOMPO HD事業分析室長としてFP&A機能の強化を推進。現在は執行役員兼経営企画部長として、グループ全体の経営資源配分・FP&A・ガバナンス体制構築を通じた企業価値向上を担う。
キャッシュフローの特殊性と保険ビジネス特有のリスク構造
製造業をベースに語られることが多い管理会計やFP&Aだが、金融・保険業におけるFP&Aの実践には、業界特有のビジネスモデルへの深い解像度が求められる。モデレーターを務める池側千絵氏は「管理会計の教科書は製造業を前提としたものが一般的ですが、保険事業特有の収益構造やリスク管理にFP&Aをどう組み込んでいるのか」と問いを投げかけた。
P&G、マクドナルド、レノボ、ケロッグなど外資系企業の日本子会社でCFO/FP&Aの実務を経験したのち、現在はFP&A導入支援を通して日本企業の企業価値向上を支援。東証プライム上場企業社外取締役、成蹊大学客員教授、慶應ビジネススクール非常勤講師。修士(経営学)、博士(プロフェッショナル会計学)。著書『分析力と提案力で企業価値を高める FP&Aの教科書』『実践 日本版FP&A―CFOが企業価値を高める経営管理の組織と手法』『管理会計担当者の役割・知識・スキル―ビーンカウンターからFP&Aビジネスパートナーへの進化』。
広瀬氏は、保険ビジネスにおける最大の構造的特徴として「キャッシュフローの先入れ・後出し構造」を挙げる。一般的な製造業や小売業は、原料の仕入れや製造コストが先行して発生し、販売によって後から現金が入ってくる。これに対し保険会社は、顧客から先に保険料を受け取り(キャッシュイン)、事故や災害が発生した段階で後から保険金を支払う(キャッシュアウト)。そのため、ビジネスが順調に推移している限りにおいては資金繰りが極めて安定しやすいという特性を持つ。
「しかし、その裏返しとして『原価(支払保険金)が事後的に決まる』という巨大な不確実性を抱えています。売上である保険料が確定している一方で、近年の気候変動に伴う台風や豪雨といった自然災害により、想定を超えて原価が跳ね上がり、売上を上回ってしまうリスクが常に存在するのです」と広瀬氏は説明する。
また、生命保険事業などにおける長期の資金運用プロセスおいては、金利や株価、為替の変動といったマーケットリスクへの対応が不可避となる。歴史的な低金利下で生じた「逆ザヤ(契約時に約束した予定利率を運用利回りが下回る状態)」のように、事後的な原価確定リスクが経営を揺るがす恐れもある。
こうした不確実性を吸収するバッファーとして、保険会社は規制に基づき一定の資本(自己資本)を確保しなければならない。限られた資本の中で持続的成長を実現するために鍵を握るのが、「リスク分散」の観点である。グローバルな地域分散や、保険会社が引き受けリスクの一部を移転する「再保険(Reinsurance)」のしくみを駆使し、巨大な集積リスクを適切にコントロールしながら資本効率を高めるプロセスこそが、保険業における経営管理の根幹をなすのである。
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