顧客接点と顧客との関係をインターフェイスで統制する
ビジネスモデルを因果ループ図で表現する5
チャネル調整ループ
5つ目は、「チャネル調整ループ」と呼ばれる均衡ループであり、これはビジネスモデルの「顧客インターフェース」に関連するものです(図9)。このシナリオは、以下の通りです。
「ターゲット顧客のセグメントが明確になれば、各々のセグメントに接するチャネルリンク(購買前、購買時、購買後)とその役割が明確になる。その結果、チャネル全体のパフォーマンスが向上する。これは、顧客リレーションシップの向上につながる。ただし、顧客リレーションシップ全体の向上は、ターゲット顧客のセグメントを不鮮明または曖昧にする」
ビジネスモデルを因果ループ図で表現する6
顧客リレーションシップ統制ループ
最後は、「顧客リレーションシップループ」と呼ばれる自己強化ループであり、これも顧客インターフェースに関連するものです(図10)。このシナリオは、以下の通りです。
「顧客リレーションシップの強化は、その結果としてターゲット顧客の母集団を増やす(あるいは離脱を減らしたり活性化させたりする)。それにより、さらに顧客リレーションシップが強化される」
言うまでもなく、自己強化ループは好循環になる場合も、悪循環に陥る場合もあります。したがって、因果ループ図を描写する目的は、システム全体に好ましい変化を起こすために、外部からの適切な刺激を与える場所を考えることにあります。この場所はレバレッジポイントと呼ばれます。
今回考察したビジネスモデルの因果ループ図におけるレバレッジポイントを、顧客リレーションシップのサブ要素であるメカニズムと仮説を立ててみましょう。第9回目の記事において、顧客リレーションシップのメカニズムとして、パーソナライゼーション、ブランド、信用、評判、コクリエーションを取り上げたのを覚えていますでしょうか? もし、皆さんがビジネスモデル(あるいはビジネスモデルキャンバス)を構築していれば、これらの適切なメカニズムを投入することにより、ビジネスモデル全体がどのように変化していくかを分析することができるかもしれません。
今回ご提示した仮説としての因果ループ図は、以下の可能性を物語っています。
第1に、コンピタンス(価値生成の能力)とリソース(経営資源)の過不足は、協働ネットワーク(パートナーやサプライヤー)と適切に連携することによって調整が可能になること。
第2に、価値提案が向上しても、顧客増加とそれに伴う収益アップより先にコスト増を招く恐れがあること。
第3に、価値提案が向上だけでなく、適切なチャネルを通じた顧客リレーションシップの改善に努めること。このモデルの場合、顧客リレーションシップのメカニズム(パーソナライゼーションなど)がレバレッジポイントとなっています。
さらなる定量的な分析は、ストックフロー・ダイアグラム(SFD)などを活用することによって可能となります。それは、ビジネス要素の変数を定量化し、感度分析やシナリオ構築に対する実践的手法を提供するものです。
まとめ
3回にわたって、ビジネス構造の動的な側面についてご説明してきました。これらで使われるツール(AHP/ANP、TRIZ、因果ループ図など)は、エンジニア領域では一般的に活用されるケースがありますが、ビジネス領域でも大いに活用されるべきであると考えます。ビジネスアーキテクチャーは、概念モデルというビジネスの静的な関係性を中心に表現されますので、それを補完する上でこのような思考法やツールの有効性を少しでもご理解いただけたら幸いです。
(参考資料)
- USING CAUSAL LOOP DIAGRAM TO ACHIEVE A BETTER UNDERSTANDING OF E-BUSINESS MODELS - International Journal of Electronic Business Management, Vol. 7, No. 3, pp. 159-167 (2009)