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クリステンセン教授の新刊『Competing Against Luck』で語られた「ジョブ理論」とは

ブックレビュー:“Competing Against Luck: The Story of Innovation and Customer Choice”

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差別化された顧客体験を生み出す、顧客のジョブを中心にした「組織統合」とは?

顧客のジョブを中心にした「組織統合」

 最後のセクションでは、企業経営者が持つべきジョブの視点について解説しています。一般に企業の組織は、機能別あるいは事業部別、地域別に分かれており、ジョブの視点はなく、各部門がもたらす製品やサービスは模倣しやすく、差別化が困難です。他方、顧客のジョブを中心に統合した組織は競争優位で模倣しにくい顧客体験を提供することができるのです。複数の科をたらい回しにする総合病院と患者のケアが中心となっているメイヨークリニックの違いを例に挙げます。

 トヨタ生産方式も同様です。ものづくりに向けて統合化されていることで、部分的に真似されたとしても、競争優位は簡単にはゆるぎません。また、車載テレマティクス大手のオンスターは、顧客の不安解消というジョブを中心に経営されていたため、災害時に行き届いた対応が可能になりました。

 これらの企業のようにジョブ中心の組織統合にはいくつかのポイントがあります。

  • 顧客のジョブを明確にすること
  • 顧客のジョブ解決に責任を持つ組織を設けること
  • KPIを売り手の指標ではなく、顧客のジョブで設定すること

クリステンセン氏が警鐘を鳴らす「データの誤謬」

 かつて顧客のジョブを解決することに長けていた偉大な企業も、データに関する3つ誤謬によって凋落しうると警鐘を鳴らします。

  1. 能動的データと受動的データの誤謬
    ビジネスを立ち上げる際、企業は多面的に顧客のジョブに注目し、発掘されるのを待っていた受動的なデータを収集する。しかし、一旦事業が確立されると、その業績を示すためにだけ収集する能動的なデータばかりに注目してしまう。能動的データは恣意的に作り出していることに注意する必要がある。
  2. 表層的成長の誤謬
    ビジネスが一旦立ち上がり、顧客を獲得すると、同じ顧客に向けた他の事業を企業は立ち上げることが多い。顧客獲得の限界費用が下がるため、合理的な判断であると同時に、顧客のジョブ解決に関しては最適化されていないことが多く、表層的成長と呼ぶ。複数のジョブを同時にまんべんなく解決するような企業は、その中の一つを完璧に解決する企業によって危機に陥る危険がある。
  3. 確証データの誤謬
    人は見たいようにデータを見て評価する傾向にある。また、情報を戦略や方針に合わせて解釈され、まるで客観的なデータで判断したかのような錯覚を持つ傾向がある。

 クリステンセン氏が提供するジョブのレンズは、既存事業のカテゴリーイノベーション、新規事業開発に取り組む方々が対峙する際に、「顧客の本質」を見抜く道具になるはずです。

本コラム筆者INDEE Japanによる講座、事業開発に役立つ「JOBSメソッド」基礎講座、1月31日(火)開催

  • 講座名:事業開発に役立つ「JOBSメソッド」基礎講座
  • 日時:2017年1月31日(水)10:00~18:00(受付開始は9:30)
  • 場所 株式会社翔泳社 セミナールーム(〒160-0006 東京都新宿区舟町5:地図
  • 詳細・申込:http://event.shoeisha.jp/bizgenews/20170131/

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この記事の著者

津田 真吾(ツダ シンゴ)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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