科学界のカウンターカルチャーを 青木竜太と池上高志の出会い
その数週間後、岡の紹介で青木は東京大学の池上研究室を訪ねることになる。池上高志は、見かけも中身もロックミュージシャンのような科学者だ。細身で背が高く、どことなく忌野清志郎やミック・ジャガーのような風貌に見えなくもない。一度口を開くとぶつぶつと、しかし熱っぽく早口にしゃべる。東京大学駒場キャンパスにある彼の研究室を訪ねた青木は、ポスターが張りめぐらされた入り口を見て「一見するとバンドの部室みたいだった」と思い出す。そのときに池上は、2018年のALifeカンファレンスを、研究者だけでなくさまざまな分野の人が参加できる「TED Likeなもの」にしたいと青木に語ったという。「ギラギラしているけれど、一方で偉そうにする様子はなく、この人とは一緒にやれそうかなと思いました」と青木は振り返る。
ALifeのことについて語るときに多くの人が口を揃えるのが、この学問が「世界の新しい見方」をもたらすということだ。ALifeは「遺伝物質=生命」と思われていた20世紀の生物学に対するアンチテーゼであり、トップダウンで知性をつくり出す人工知能とは反対にボトムアップで立ち上がる知性の構築を目指し、大量のデータを俯瞰して見えてくる構造を捉えることで、ミクロな状況だけを見ていてはわからなかった視点を提供する。そして何より、「生命のOS」を見つけ出し人工的に生命をつくり出すことができたら、人類の価値観や「生命」に対する認識は大きく変わることだろう。