持続型イノベーション
持続型イノベーションとは市場にすでに存在する解決策の改良であり、通常は既存のプロダクト/サービスにより高いパフォーマンスを求める顧客をターゲットとする。一般消費者向け商品の業界にいる友人は、既存の顧客を喜ばせるために新しい味や色や特徴の商品をつくり、「最小管理単位」を新しくしている。ユニリーバのリプトン紅茶を想像してほしい。今日、リプトン紅茶のフレーバーは想像を絶するほどたくさんの種類がある。少なくともそう思わせるほど多い。抹茶ミント味からグリーンアイスティー味まで多彩なフレーバーを次々に開発し、既存のお茶愛飲家市場をより多く獲得しようと、少なくとも既存シェアを維持しようとしている。これは持続型イノベーションの例だ。新規の愛飲家を引っ張り込もうとするのではなく、既存顧客に別のものを提供しようとする。リプトンが沈滞していないことを社員と顧客に知らせるたいせつな意味もあるが、ベリー・ハイビスカス味を売り出したところで新規顧客の市場は創出されない。
持続型イノベーションは値上げや利幅の拡大を伴うことが多い。自動車の暖房シートはメーカーが車の値段を上げたい場合に有効なオプションだが、ターゲットは既存ユーザーである。馬で移動している人を新たに自動車へ引き込むことにはつながらない。
持続型イノベーションは至るところにあり、経済にとって、また、企業や国が競争力を維持するうえできわめて重要である。しかし、ほかの2種類のイノベーション、すなわち市場創造型イノベーションおよび効率化イノベーションとは経済に及ぼす影響が異なる。成熟した市場で企業が持続型イノベーションを進める場合、売る相手も売り方もすでにほぼ確立されているため、販売手法や流通網、マーケティング、製造技術などを刷新する必要はほとんどなく、雇用創出や利益獲得、地域文化の変化に与える影響も市場創造型イノベーションとはちがってくる。
図2の重なった3つの円を見てみよう。それぞれは、社会の異なる構成要員からなる異なる市場を表している。市場Aは最も人数の少ない、裕福でスキルのある消費者を表す。市場BはAよりは人数が多いが、裕福さもスキルもAより劣る。市場Cは最も人数が多く、裕福さとスキルは一番低い。持続型イノベーションは3つの円のどれで発生しても、市場の規模にはかかわりなく、その円の市場にいる同じ顧客に向けてより多くのプロダクトを売ろうとする。
企業は既存のプロダクト/サービスに新しい機能やメリットを付加してなるべく売上と利益を増やしたいので、多くの企業が最も裕福な市場Aのセグメントを狙おうとする。持続型イノベーションもある程度の成長は達成するが、図からもわかるとおり、ターゲットセグメントの人数が少ないため、この成長の影響は限定的だ。また、裕福な市場Aでの消費者獲得競争は、ほかの企業も多く参入するので熾烈になる。セグメントの異なる、すなわち別の円にいる消費者に対しては異なる戦略を立てなければならず、持続型イノベーションが新規顧客を惹きつける場合がときにあったとしても、通常は偶発的である。