組織での対話に必要な「準備・観察・解釈・介入」というプロセス
埼玉大学大学院 人文社会科学研究科 宇田川元一氏(以下、敬称略):前回、小向さんから「“組織開発≒対話”という認識に違和感がある」という話が出ましたが、僕もここについては同感で、「巷にあふれている対話の考え方を刷新したい」という思いを強く抱いています。対話とは、単なる一対一のコミュニケーションではないし、ワークショップでもありません。自分が生きているナラティヴを一旦脇に置いて、相手を観察し、相手がどういう世界にいるのか解釈して、それから介入する。この「準備・観察・解釈・介入」という4つのステップが、対話のプロセスだと考えています。
昨今の日本企業の現状を見ると、このプロセスのうちの「準備」と「観察」ができていないケースが多いように感じています。準備ができていないと、相手のせいにしがちですし、観察ができないと「べき論」が先に立ってしまって、現実的に歩みを進められません。結果としてある一定の方向、価値観に縛られた自分の理想だけを相手に押し付けてしまうことになり、結局、何も変わらないですよね。
今回お話を聞いていて、小向さんは社員のこともさることながら、組織側、経営サイドの状態もよく観察された上で、対話的に施策を検討されていますよね。 そして、観察をし続け、会社の状況の変化に応じて解釈をあらため、介入の仕方も変えている。だからこそ、有効な施策を打ち続けられているのかなと感じました。
ヤフー株式会社 小向洋誌氏(以下、敬称略):マネージャーって、自分の考えを部下に押し付けがちになってしまうんですよね。ただ、実際そこにあるのは「なんとかして部下の役に立ちたい」という善意だったりすることも多い。僕は社交性が異常に高い人間なので「異業種交流会に行ったほうがいいよ!」とアドバイスしがちなんですけど、相手が「知らない人と話をするのがストレス」と感じるタイプだったら、その助言自体が苦痛になってしまいます。
そこで大切なのは、おそらくメタ認知なんですよね。自分の好き嫌いや「普通はこう思うだろう」という思い込みを一旦手放して、現状をフラットに認知すること。これは、宇田川先生のおっしゃる観察や介入にも、不可欠な感覚だと思います。善意の積み重ねが、不幸に繋がらないためにも。