登壇者紹介
- 竹林 一氏(オムロン株式会社 イノベーション推進本部 インキュベーションセンタ長)
竹林さんによる「イノベーションとは何か」、その出発点
竹林氏いわく、「イノベーションは関西から起こる」という。理由の1つは「ブラブラしている人が多いこと」。そのために雄花と雌花を媒介するミツバチのように、ユニークな者同士を引き合わせる人が多いからだという。そしてもう1つは、「ものの見方が違うこと」。既にあるステージで闘うとなれば、先行し大規模な東京の企業に勝てないのが必然で、それ故に“新しいステージ”をつくりにいくというわけだ。
そういう竹林氏もその一人だろう。人の輪を広げてそこから新しいビジネスモデルを生み出してきた。現在はオムロンのインキュベーションセンタ長として「イノベーションが生まれる仕組みや環境づくり」に取り組み、政府関係の施策や京都の大学での研究に参加するなどイノベーションの伝道師として活躍している。
そんな竹林氏が重視するのは「イノベーション」の本質的な意味を捉えることだという。そもそも「イノベーション」とは何か。1911年に経済学者のヨーゼフ・シュンペーターが自著のなかで触れており、「組織や製造プロセスなども含めて、それまでと異なる仕方で新結合すること」と定義している。たとえば、「『日本を代表する和菓子メーカー』が国産小豆から外国産に変えても味が変わらない」というのは、原材料確保から技術まで卓越した工夫があったからであり、これもまたイノベーションというわけだ。
「イノベーションとは、知財や新規事業だけではない。たとえば、心理的に安全な組織をつくり、そこから新しい製品や製造方法が生み出されたら、組織づくりそのものもイノベーションだ。だから、人事であろうが技術であろうが、誰でもイノベーションの当事者となりうる。そもそも『馬車から車をつくる』など、誰もができるはずがない。“あなたにとってのイノベーションが何か”を考えることが重要なのだ」と竹林氏は語る。
なおオムロンでは創業時から、「ソーシャルニーズの創造」「社会的課題の解決」とイノベーションを定義しており、「顧客の困りごとを解決する」と明確にしている。たとえば、オムロンが手掛けた「全自動感応式信号機」も、交通渋滞という社会課題の解決が発想の起点だ。目指すべきイノベーションを明確化することで、社員は何をすべきかを理解し、仕事に邁進できるというわけだ。
一方、「イノベーションせよ」という声がけだけでは、誰も何をすればいいのかがわからず、時には必要以上の変化を起こそうとして、ハレーションを起こして失敗する。経営層のイノベーションの定義こそが、組織のイノベーションの起点というわけだ。
さらに「オープンイノベーション」というと一見難解に見える。しかし、定義は「組織の内部と外部が連携して新しい価値を生み出すこと」であり、新結合という意味ではイノベーションと変わらない。