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なぜ日本のワクチン接種は上手くいかないのか──安田洋祐氏に聞く、行動経済学とゲーム理論による社会実装

第2回ゲスト:大阪大学大学院 経済学研究科 准教授、株式会社エコノミクスデザイン共同創業者 安田 洋祐氏

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研究者が世間に情報発信する文化づくりのために

馬田 隆明氏(東京大学産学協創推進本部 FoundX ディレクター、以下敬称略):今日は安田先生の研究領域や活動に関して、『未来を実装する』の5つのキーワード(「デマンド」+「インパクト」「リスク」「ガバナンス」「センスメイキング」)と関連する部分からお伺いできればと思います。安田先生は経済学者でありながら、メディアやブログによる情報発信のほか、「Economics Design Inc.」(EDI)という会社の共同創業者として、経済学のビジネス活用の推進もされていますね。私から見ると、安田先生は経済学のセンスメイキング、あるいは経済学の社会実装をされているのだと思いますが、いかがでしょうか。

安田 洋祐氏(大阪大学大学院 経済学研究科 准教授、株式会社エコノミクスデザイン共同創業者、以下敬称略):メディア出演に関しては、僕自身が経済学の知見を発信するという目的もありますが、それ以上に大きな意図があります。それは、自分が積極的にメディアに出ることで、研究者がメディアで情報発信することのハードルを下げようということです。特に僕と同世代(40代前半)やそれよりも若い世代の研究者に間接的にでも影響を与えられたらと、当初から意識していました。僕が大学院生の頃、少なくとも経済学の分野においては、研究者がテレビはもちろん、新聞や書籍を通じて発信することはあまり褒められたことではない、ある種の堕落だ、というような雰囲気が少なからずありました。

 一方で、研究者からはきちんとした評価を受けていないようなエコノミストやアナリストがメディアで持論を展開したり、書店で平積みになるような本を出版していたりする。一概にそれが悪い、意味がないなどとは思いませんが、研究者たちが「くだらない」と閉じた世界の中で批判する場面があったのも事実です。それでは、一般の人には批判も研究の最先端も届きません。このような構造は誰にとっても良くないのではないか、と感じていました。僕が研究者を志した理由のひとつに、研究内容を自分の中にとどめずに広い意味で社会に還元したいという思いがあったので、この状況を放ってはおけませんでした。それで、メディアに積極的に出るようにしたんです。

 その影響かどうかはわかりませんが、最近では一般読者向けの経済誌に、研究実績のある方たちが頻繁に論稿を書いたりしています。コロナ禍でも、例えば東京大学大学院経済学研究科の仲田泰祐准教授や藤井大輔特任講師のグループが経済学と疫学モデルを組み合わせて新型コロナウイルスの感染状況の予測[1]などをしていますよね。ああいったことを、一昔前の経済学者はやらなかった。僕がメディアに出始めて10年くらい経ちますが、だいぶ変化を感じています。


[1]NHK政治マガジン「五輪開催で感染数どう変化? 東大グループ試算」(5月24日)

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