インタビュー 経営変革の「思想」と「実装」

宇田川准教授がライオン松本氏と藤村氏と語る、インサイドアウトの経営変革に不可欠な両利きの支援者とは?

第1回ゲスト:ライオン株式会社 ビジネス開発センター 松本 道夫氏、藤村 昌平氏

 本連載は、埼玉大学経済経営系大学院 宇田川元一准教授をホストに迎え、大企業が新規事業やDXなどの新規価値創出を行う際に必要となる経営変革の思想と実装を紐解いていく。今回はライオン株式会社で2020年度に発足したビジネス開発センターの本部長・松本道夫氏と、過去にイノベーションラボの立ち上げや社内起業プログラム「NOIL」の創設を主導、現在はビジネス開発センター内で新規事業のインキュベーションを手掛ける藤村昌平氏をゲストに迎えた。前編では、新規事業の育成と既存事業の変革の両方を担うというユニークな支援組織ができた経緯と、大企業においてそのような体制に合理性がある理由が語られた。(本取材はリモートにて実施)

[公開日]

[語り手] 松本 道夫 藤村 昌平 宇田川 元一 [取材・構成] やつづかえり [写] 和久田 知博 [画] 青松 基 [編] 栗原 茂(Biz/Zine編集部)

[タグ] 企業戦略 インキュベーション ポジティブデビアンス 経営変革 アイディエーション

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新規事業と既存事業の両方を支援する組織

宇田川元一氏(埼玉大学経済経営系大学院 准教授、以下敬称略):まずは、松本さんが担当されている「ビジネス開発センター(以降、本部)」についてご説明いただけますか。

松本道夫氏(ライオン株式会社 ビジネス開発センター 本部長兼統括部長、以下敬称略):はい。ライオンは創業から130年ほど経ちますが、ずっとトイレタリーや薬品などの製品を扱うBtoBtoCのモデルでやってきました。昔は「営業のライオン」と言われ、卸流通に関しては「ライオン会」という非常に強い組織があり、製品を発売すれば、卸店さんが全国津々浦々の店頭に置いてくださる。そしてテレビコマーシャルを流せばお客さんが動いてくれる、というビジネスモデルでやってきたわけです。

 ただ、昨今はビジネス環境が大きく変化しています。外資系企業の進出、異業種のプレイヤーも参入し、競争はますます厳しくなっています。チャネルに関しては、ECが拡大しています。そして、メディアではマス広告の効果が減少しSNSなどデジタルメディアの存在感が増し、以前からのやり方では、情報がお客さんに届けにくい環境になっています。

 そんな中で新しい事業をどう創るか、ビジネスモデルをどう変革していくか、試行錯誤しながら体制を作ってきたのがここ4〜5年のことです。

ライオン株式会社ビジネス開発センター体制図図版出典:ライオン株式会社「ライオン統合レポート2021」(p51 2021年5月発行)
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 この体制図は本部の全社における役割を示したものですが、我々は全く新しい組織というわけではなく、もともとは既存事業のブランドの強化に向けて広告宣伝やマーケティングリサーチなどの支援を行う部署でした。

 ただ、先ほど述べたような環境変化の中で、新規事業も支援すべくひとつの本部を作ったのが2020年1月です。藤村が部長を務めている「ビジネスインキュベーション」という部署は、新しい領域で新規事業にチャレンジする「イノベーションラボ」や社内の起業プログラム「NOIL」などで生まれたアイデアとそのオーナーを受け入れています。それを、もともとは既存事業のマーケティング支援をやっていた人たちも加わり、一体となって新規事業開発を行います。その事業がうまく育てば、独立事業体として本部を卒業するという仕組みです。

 既存事業に関しても、本部が従来の事業部とは異なる「提供価値領域」別のバーチャルな組織体に参画し、マーケティングやブランディングの支援をしています。このように新規事業も既存事業もやるというのは、一般的には珍しい組織かと思います。

「提供価値領域」別のバーチャルな組織体図版出典:ライオン株式会社『「Vision2030」について』(ライオンコーポレートページ)
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