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二項動態のDX

DX推進のためのビジネスアジリティの実装──予算編成にも及ぶ「ノンソフトウェアアジャイル」とは?

ゲスト:株式会社エル・ティー・エス 執行役員 山本政樹氏

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 日本企業のDX支援などに取り組む株式会社レッドジャーニーの代表であり、株式会社リコーにてDXエグゼクティブなども務める市谷聡啓氏。本連載では、市谷氏がホストとなり、各企業のDX推進のキーマンをゲストに迎えて、対談形式でDX経営の課題、実行体制、人材像や評価などを明らかにしていく。今回のゲストは、『Business Agility』や『Process Visionary デジタル時代のプロセス変革リーダー』などの著作を持つ、株式会社エル・ティー・エス 執行役員 山本政樹氏。前編ではDXにおけるビジネスアジリティを、要求工学の観点で捉えた山本氏の主張を中心に議論が進んだ。その内容をお届けする。

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DXとは変容していく社会における自社の在り様を描くこと

市谷聡啓氏(以下、敬称略):今回の対談は私と山本さんのDX観の共通点を見出すことにより、読者に対して知見を提供できると思い企画しました。まずは、山本さんのDXの捉え方、DX観からお聞きできますか。

山本政樹(以下、敬称略):DXの定義には大きく分けて、それを「事象」とするものと、それを「目標(目指すもの)」とするものに分かれます。本来のストルターマン教授の定義[1]は前者に近いものでしたが、経産省などの定義[2]は焦点をビジネス寄りにした上で、 「目標」に近い定義となっています。

 私はどちらかといえばDXを「事象」として捉えています。『暴力の人類史 上・下』というスティーブン・ピンカー氏の名著[3]があります。この中で、人類は活字によりさまざまな立場の人の物語を共有できるようになり、それが人類愛や社会規範に関する共通理念を形成する上で大きな役割を果たしたと論じています。インターネットを中心としたデジタル技術の発展は、同じことを大規模、かつ急速に進めました。それまでつながることができなかった人々がつながり、大きな社会変化を引き起こしたのです。「アラブの春」の評価はともかくとしても、SNSが国家体制をひっくりかえすほどの影響力を持ったわけです。

 デジタル技術を基盤とした人々の「コミュニケーションの変化」は、社会に急速な変化をもたらしています。人々はそれまでの国や企業に閉じた狭い視野ではなく、社会全体や地球環境を意識した大きな目的に活動することを意識するようになりました。その力は、企業の存在意義を「稼ぐこと」から、「社会問題を解決する」ことに大きくシフトさせています。その結果、事業継続の前提(ゴーイングコンサーン)が常識であった企業に、「パーパス」や「ミッション」を意識し、これらの達成の先には企業体の解散すら視野にいれる新しい企業運営の考え方をも生み出しました。もちろん多様性を意識し、マイノリティの権利を保護する流れも、このようなデジタルがつなげた人々の価値観の変化がもたらしたものだといえます。

市谷:デジタル社会になったことで社会のコミュニケーションが変わり価値観が変容してきた、ということですね。そのような変化は、大企業にどのような変化を促す要因となるのでしょうか。

山本:デジタルトランスフォーメーションを最も広い視野で捉えた場合の定義とは、このようなデジタルによってもたらされる社会全体の大きな変化だと言えます。それを企業にとっての意義として考えた場合、大切なのはこのような環境下で企業としてどのように継続的に顧客と社会に価値を提供するかになります。デジタル技術をどう活用するかという命題は企業のDXのごく一部の問いでしかありません。大切なのはデジタルによって大きく、しかも劇的に変わる社会において、自社の在り様を描いて変革(=トランスフォーメーション)させていくこと、それを継続することです。

 現在の経営環境においては、真面目にこれに取り組むとほぼ間違いなく何らかの形でデジタル技術が関わります。その意味で、企業変革の取り組みが 「DXの推進」となることに疑いはありません。ただ、企業活動の本質はいつでも「社会と顧客への価値の提供」であり、「変容していく社会における自社の在り様を描くこと」です。これが大企業に求められる「DX」だと考えています。


[1]Erik Stolterman, Anna Croon For「INFORMATION TECHNOLOGY AND THE GOOD LIFE」(2004)

[2]経済産業省「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX 推進ガイドライン)Ver. 1.0」(2018年)

[3]スティーブン・ピンカー『暴力の人類史 上』(2015年、青土社)

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この記事の著者

栗原 茂(Biz/Zine編集部)(クリハラ シゲル)

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