理想とする未来を構想し実現する力、イノベーターシップとは?

第1回:多摩大学大学院 教授/研究科長 徳岡 晃一郎 氏

 厳しい経済環境にあり閉塞感が高まる日本では、新たな価値を創出するビジネスイノベーションが渇望されている。しかし既存の企業組織ではリスクを恐れ、事なかれ主義に流れる傾向があると言われている。問題があるのは組織なのか、それとも人材なのか。そして、イノベーションを牽引するリーダーに求められる力とは、どのようなものなのか。日産自動車で人事畑を歩み、外資系人事コンサルファームのパートナーを経て、現在は多摩大学大学院の経営情報学研究科で教授/研究科長を務める徳岡晃一郎氏にうかがった。

[公開日]

[語り手] 徳岡 晃一郎 [取材・構成] 伊藤 真美 [編] BizZine編集部

[タグ] タレントマネジメント 事業開発 企業戦略 イノベーターシップ Innovatorship リーダーリップ マネジメント

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今までのリーダーシップではイノベーションは起こせない

——グローバル化やIT技術の進化などで、既存の価値観は揺らぎ、世界は急激に変化しています。そうした中で日本でも新たなイノベーションが期待されていますが、どの企業や組織でも思うようには実現できていないようです。

徳岡:
 組織内の不条理な文化や成果主義の弊害など、環境にも問題はあります。しかし、まずはイノベーションを牽引するリーダーに求められる力が大きく変化したことに気がつくべきでしょう。

 まず、社会環境が大きく変化し、思いもよらない競争相手が登場するようになりました。また、「グローバル・ビッグイシュー」という言葉がありますが、世界にも日本にも問題が山積する中で、既存の価値観や競争原理のままで事業を推進しても、格差や環境破壊などを生み、むしろ問題を増長しかねません。つまり、競争の中で勝ち残るために常に変化を起こさなければならない時代でありながら、今までのように「勝てばいい」というわけではなく、共生や協働といった価値観も求められるようになってきているのです。

 そうなると、もはや従来型のMBAのような専門分化された理論をどんなに学んでも、求められるリーダーの力は養われません。むしろそうした“優秀な人”ほど、イノベーションの足かせになってしまう可能性がある。まさに日本の現状がそれに該当すると言っても過言ではないでしょう。

——それでは、イノベーションを担う新たなリーダーには、どのような力が必要になるのでしょうか。

 

徳岡:
 私は、これまでのリーダーシップとは異なる新たな力が必要として、「イノベーターシップ®」と定義しています。

 かつてジョン・P・コッター教授(※1)は、組織を動かしていくための力として、マネジメントを「複雑性への対処」、リーダーシップを「変化への対処」とし、その2つが重要であると位置づけました。状況の変化に応じてビジネスモデルを改革し、チームを率いて困難な問題を解決する力こそ、リーダーに必要としたわけです。しかし、それによって実現したのは、変化の中で競争に勝利し、より大きな利益を得ることであり、短期的なKPIを達成し続けることに他なりません。結果として未来創造のための長期的な視点を失う危険性を秘めています。

 つまり、イノベーションには「より良い未来のために何をなすべきか」と構想する価値観が不可欠であり、それをビジョンとして掲げ、推進していく力こそ、次世代のリーダーに求められる「イノベーターシップ」なのです。

(※1)ジョン・P・コッター教授:ハーバード・ビジネススクールの松下幸之助記念講座名誉教授。リーダーシップと変革に関する世界屈指の権威

徳岡晃一郎多摩大学大学院 徳岡晃一郎 研究科長/教授
フライシュマン・ヒラード・ジャパン パートナー・SVP CCW部門プレジデント。1980年東京大学卒業、日産自動車、欧州日産を経て1999年より現職。オックスフォード大学経営学修士。2006年より多摩大学大学院教授を兼務、2014年より大学院研究科長に就任。2012年より知識リーダーシップ研究所所長。

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