なぜ長期投資家はESG投資に軸足を置くのか
──前編では、コーポレートガバナンス・コードの中でも、特に会社と株主の関係や取締役会の役割に関わる部分(基本原則1・5・4)について解説いただきました。残りの基本原則はESG投資と関係してきますね。
まずは、なぜESG投資が重要視されているのか、その背景から始めましょう。
投資の世界でも、非常に大きな資金を長期で投資している機関投資家が存在します。彼らは企業の年金や個人が積み立てている投資資産、国の公的年金基金などのお金を預かり、運用しています。つまり、他人のお金を増やすことについてかなり長期的な責任を負っているんです。また、預かっているお金が大きいため、膨大な数の銘柄に投資しています。その数は日本株だけでも2,000~3,000社という単位ですから、投資先を分散してリスクを回避するのにも限界があります。どうしても、世界経済全体の影響を受けることになってしまうんです。
例えば、2019年には日本にものすごく大きな台風(台風19号)が来ましたね。その損害額は国土交通省の発表によれば約1兆8600億円だと言われています。そういうことがしょっちゅう起これば、日本経済は危うくなります。長期での気候変動対策は、日本全体の経済を安定させるためにも必要なんです。
個人投資家なら、気候変動の影響を受けないような企業だけを選んで投資することもできます。しかし、日本の国民年金全体を扱うような場合、多くの企業に分散して投資しなければいけません。それは債券投資でも同様です。長期に安定する経済を実現するには、長期で安定する社会や環境が必要になりますから、ESG投資が重要なのです。ESG経営は、そのような投資家の声に応えるためにあるものと考えられます。
このときに、コーポレートガバナンス・コードの基本原則2「株主以外のステークホルダーとの適切な協働」が関係してきます。
株主にとっても長期で考えれば考えるほど、株主以外のステークホルダーが大切な存在になります。環境だけでなく、取引先、従業員、自治体など、いろいろなステークホルダーと共に発展していかなければ、長期の経済発展や会社の成長はないからです。
そのような流れのなかで2019年に、米国の大企業が加盟するビジネスラウンドテーブルにおいて、「ステークホルダー資本主義」が提唱されました。