データ分析の先にイノベーションはない。リーダーに求められるインサイトへの感性
――扱えるデータが急速に増え、分析速度が上がって、リアルとデジタルの融合が可能になる、となれば、データ分析による最適化だけでなく、イノベーションの起点になるという期待も高まります。
萩原:
前述したように記述・診断から、予測・処方的な分析が可能になり、分析の粒度が細かくなって精度も飛躍的に向上すれば、最適化に対しての貢献度は高まります。リアルにせよ、デジタルにせよ、「マーケティング=最適化」にデータ活用が重要なカギを握ることは間違いありません。
とはいえ、分析レベルを高めて最適化を極めれば、イノベーションに“地続き”でアプローチできるかといえば「NO」でしょう。過去の分析データと未知の新たな価値創造の間には何らかの“飛躍”が必要です。そう、イノベーションは何らかの新しい「気づき」や「ひらめき」から生まれます。街を歩いている人を眺めていて気づくこともあれば、自身への深い洞察から生まれる場合もあるでしょう。人々の欲求や思い、その傾向といった目に見えないものから、自然に気づきを得られる人は、ある意味“天才”です。
しかし、データによって傾向や思いを可視化できれば、普通の人でも何らかの気づきやひらめきが生まれ、イノベーションの起点となるアイデアや仮説を生み出すことができるかもしれません。それが「データをイノベーションに役立てること」の第一ステップだと思います。そして、その「気づき」から生まれたビジネスアイディアをプロトタイプとして市場に投じ、ブラッシュアップする際にもデータ活用は大いに役に立ちます。
――データからイノベーションにつながる「気づき」を得るために、身に付けるべき教養やスキル、視点などはありますか。
萩原:
まず大切なのは「データの背後にある人間行動や社会事象への想像力と感性」でしょう。そして何かを気づいたら、なぜそのように思ったのかの根拠を自分の内面に探す「本質直観」と呼ばれるプロセスも重要です。
この数年「データ・サイエンティスト」が注目されていますが、データ収集および分析の自動化が進めば、データを触れるだけの人はそうたくさんはいらないと思います。むしろ、ビジネスリーダーとして自分の実体験の中から仮説を持ち、出てきた分析結果と照らし合わせた時の「そういえば…」「やっぱり」という感覚に敏感であるべき。そのためには、自身が携わる商材に関して、ビジネス的な“皮膚感覚”を持ち合わせている必要があります。
以前であれば、ユーザー自身が「こんなものが欲しい」「ここが課題だ」と認識していました。しかし、社会が成熟してモノやサービスが満たされると、何が欲しくて不満なのか、自分自身でわからなくなっています。つまり、ビジネス側がユーザーの「インサイト」に気づく必要があるわけです。