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組織戦略としてのデータとCX

デジタル庁樫田氏に聞く、データ分析組織にとって大切な「構造理解と融和的な振る舞い」とは

【前編】ゲスト:デジタル庁 Head of Unit, Fact & Data 樫田光氏

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組織の中でデータ分析の需要と供給をともに確保する

──とはいえデジタル庁は民間企業とは勝手が違う部分もあるように思いますが、課題として捉えていることはありますか。

 デジタル庁で私が入庁後真っ先に直面していた課題は、データ分析の需要と供給の両面がともに不安定だということです。というのも、データ分析の仕事とは「データを入手する(供給)」と「データを分析してほしいというニーズ(需要)」の両面で構成されています。供給と需要がともに必要で、どちらか一方だけでも成り立ちません。

 幸運にも、メルカリでは最初から双方ともが存在していました。「こういうマーケティングがしたいので、こういう分析をしてほしい」というお題(需要)ももらえるし、そのためのデータ(供給)も大体揃っている。だからこそ迅速に仕事ができます。もちろん、私たちがマーケティングチームに新たな分析提案をすることもありますが、明確な提案先があるということが需要の安定という意味で重要です。

 一方、デジタル庁では組織として意味のあるデータの使い方を常に考えている人が、民間企業ほど多くないため、分析の需要、つまりそれを必要する部門からの要望が不安定です。上層部から分析のお題が下りてくる場合でも、お題自体の価値の解像度がそれほど高くない場合もあれば、データ分析でインサイトが得られるのかに確信が持ちにくいお題もあります。同様に供給も不安定です。ステークホルダーが複雑で、データが取得できるかどうか、利用の許可が下りるかも分かりません。

 まとめると、データ分析の需要も供給もはっきりしない状態から、組織が構築され、活動が始まっていきます。多少の差こそあれ、規模の大きな組織では同じような状態なのではないかと思います。

 このような状態を乗り切るには、一つには上層部から分析依頼が来たときに、多少自信がなくとも「できる」と言いきることです。そして、組織のトップレイヤーが必要としているという事実を使って、とにかくデータを集める。あるいは、たまたま協力的な部署が現れたときに、何としてでも受け取ったデータをうまく料理して、誰かがそれを使ってくれるようにとにかく足を運び、役立つものにする。そんなことが重要です。

専門性を発揮することを第一に考えない

──データ分析という専門性、それを活用する上層部や他部門が存在すると思います。専門性を組織に活かす際に樫田さんが重要だと考えることはありますか。

 組織を動かすことを得意とする人と、データ分析を得意とする人は、異なるタイプの専門性を持っています。最近、大企業でもデザインやデータ分析の専門性を持つ方を外部から採用することが多いですが、知識やスキルは組織を変革していく際には実はさほど重要なポイントではありません。

 エンジニアやデータサイエンティストの方で「自分は専門技術の水準が高いはずなのに正当に評価をされていない」と嘆いていらっしゃる方がいますが、その場、つまり所属する企業の目的に外れた働き方をする人はビジネスの世界では評価されません。企業とは何か、なぜ企業は営利を生み出すことができ、それを次世代に繋ぐことができるのか、を考える必要があります。そうすれば、営利を生み出すために自分がどう行動できるかを考えるようになり、自分の持っている専門性を踏まえて、どのよう戦略を立て、働くのかを考えられるようになります。

 私自身は、自分の専門性を発揮すること自体に興味は薄く、何を成し遂げられるかには非常に関心を持っています。自分の専門性を重視するあまり、「自分たち」と組織全体とを切り離して考えはじめてしまい、ビジネス上の成果を出すことに意識が向かわなくなることに懸念も持っています。

 組織を変えていくには、むしろ逆向きの思考が必要です。まずは、自分の仕事に価値があると経営層に理解してもらうことから始まります。だからこそ、経営層や主要な事業部門が取り組みたいとそのときに考えていること、つまり「需要」に目を向けなければなりません。時折、需要から完全に外れてしまっているものを、手元にある材料で作り上げてしまう人がいますが、残念ながらそれだけでは組織の中では物事が先に進んでいきません。

次のページ
既存の仕組みの背景にある構造を理解し、融和的に振る舞う

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この記事の著者

雨宮 進(アメミヤ ススム)

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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