事業会社に必要なのは「シチズンデータサイエンティスト」
藤井保文氏(以下、敬称略):前編では、渋谷さんがJR東日本のマーケティング本部でデータ分析の文化を育てていく過程をお伺いしましたが、その中で渋谷さんが果たしている「モチベーター」としての役割が大きいと感じました。データに馴染みの薄かったメンバーの皆さんにデータ分析の面白さを伝えて、奮起を促しながらデータの世界へと導いていったように見えます。
渋谷直正氏(以下、敬称略):そうですね。結局のところ、それが一番近道でチームにとっても幸せな方法だと思っています。
前編でもお話ししましたが、JR東日本の中にあるデータを分析させるとなれば、それはJR東日本の社員が最も上手く分析し、活用できるに決まっています。自社のビジネスを最も深く理解しているのは、私たちに他ならないですからね。
データ分析のために外部から専門家を採用するのも一つの手ですが、社風に馴染んだり、業務知識を得たりするまでには多大な時間を要するし、それだけで疲弊して退職してしまうリスクもあります。だとすれば、自社の人材のデータ活用の素養を磨いて、高度な理論や技術が必要な部分は外部の専門家に外注するのもよいでしょう。
そうして内部で育成した人材を、私は「シチズンデータサイエンティスト」と呼んでいます。
藤井:それは、「ユーザーやビジネスへの理解を有するデータサイエンティスト」のようなイメージでしょうか。
渋谷:いいえ、そんなに高度な専門性を求めているのではなくて、「その会社のことをよく知っているビジネスパーソンで、データ分析の素養もある」くらいのレベルの話です。
たとえば、20年前にはExcelを使えないビジネスパーソンは珍しくありませんでしたが、今ではほとんどの人が難なく使えますよね。同じように、今は高度な分析ツールを使える人は希少かもしれませんが、そう遠くないうちに誰もが使いこなす時代が来ると思っています。
つまりシチズンデータサイエンティストとは、Excelのように分析ツールを使えるビジネスパーソンのことだとイメージしていただければわかりやすいかと。R言語やPythonが書けなくても、機械学習を縦横無尽に使いこなせなくてもいいんです。事業会社の場合は、このシチズンデータサイエンティストのような人材を育成することが肝になると考えています。