2030年の理想を実現するための人的資本経営
田中弦氏(以下、敬称略):しずおかフィナンシャルグループの統合報告書(2023年版)を読みました。新たな中期経営計画(以下、中計)の中で、人的資本はもちろんのこと、非財務領域での指標が豊富に開示されていますね。特に、「グループ役職員のエンゲージメント」という指標が目を引きました。この目標を設定した理由や背景を教えていただけますか。
藤島秀幸氏(以下、敬称略):中計では、2030年度までに「すべてのステークホルダーがサステナブルかつ幸福度が高まっている状態」を目指すと明示しました。この宣言が、人的資本における目標や施策の根幹にもなっています。
この目標を設定した背景には、我々を含む多くの日本企業が短期的な経済合理性のみを追い続けてきた結果、様々な社会課題や経営課題が解決されないまま今に至っているという認識があります。そこで、「企業の本来の目的は何か」と改めて考え、それは「社会価値の創造」と「企業価値の向上」の両立ではないかと再認識することになったのです。
私たちは2030年に目指す姿を実現するべく、「地域共創戦略」「グループビジネス戦略」「トランスフォーメーション戦略」「グループガバナンス戦略」という4つの基本戦略を策定しました。そして、これらの戦略を実現する原動力は何かと考え、それは「人」であるという結論に至りました。こうした経緯から、人的資本経営をど真ん中に置いて、これらの経営戦略を実現しよう。その指標として、グループ役職員のエンゲージメント指標を入れようということになりました。ここでの「役職員」とは、経営層から社員、パート職員を含めたあらゆる従業員のことを指します。
田中:このような目標と指標を掲げたことで、社内の変化や反応はありましたか。
藤島:全体の意識はかなり高まってきたと思います。「この人財戦略は果たして経営戦略と一致しているのか?」という議論も社内で起こるようになっています。
2023年度から、経営者とグループ役職員が直接対話するタウンミーティングの取り組みも始めました。これは、ホールディングス社長とグループ各社の社長が役職員たちとの対話に出向き、本音で語り合うものです。最近では、若手社員が経営者に対して「ちょっとここ違うので、こういう感じでやっていきましょうよ」「これいいですね」といった意見を言えるようになってきました。そうやって出てきた意見を、グループ内のイントラネットなどで全てオープンにしています。都合の悪い部分を隠さないようにしているんです。しずおかフィナンシャルグループという組織が大きく変わりつつあると思います。