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オープンイノベーション促進税制と企業の本音

VC視点のオープンイノベーションとM&A──インキュベイトファンド本間氏が語るスタートアップトレンド

第4回

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事業会社によるオープンイノベーションの課題

及川厚博氏(以下、及川):インキュベイトファンドさんの投資先の中には、様々な形で事業会社と提携している会社も多いと思います。スタートアップが事業会社と提携することでどんなメリットを得られるのか、そのポテンシャルについて本間さんのお考えをお聞かせください。

本間真彦氏(以下、本間):各業界のマーケットがどんな方向に向かうのか、一番リアルな情報を持っているのは事業会社です。その豊富なデータに基づいて長期戦略を描く際に、自社ではカバーしきれない領域については、社外とのパートナーシップを求めています。スタートアップにとって事業会社との提携や、事業会社からの投資は、大企業のインフラと企画力を得ることができ、飛躍的に事業を伸ばせるチャンスであることは間違いありません。

 当社のファンド出資者には事業会社も多く、担当者とは月1回ペースでミーティングの機会を設けているケースもあり、最新情報をヒアリングしています。もちろん、非開示の情報を外に出すことはできませんが、知り得た情報を念頭に、投資先候補を探すことはあります。

及川:出資側にとって最も望ましいのは、資金的なリターンだけでなく、事業面でもシナジーを得られるスタートアップと出会えることですよね。御社の投資先におけるオープンイノベーションの好事例をご紹介ください。

本間:直近では、CO2排出量の可視化を手掛けるスタートアップのアスエネが三井住友銀行(SMBC)との業務提携を発表しました。アスエネのユーザーは既に4,000社程度に上っているとはいえ、やはりSMBC経由で将来アプローチできる顧客となると規模感が違います。アスエネにとって、成長のギアを上げるトリガーになり得る座組みだと思っています。

及川:国内のオープンイノベーションの浸透状況については、どうご覧になりますか。

本間:CVCの設立もここ数年で増え、広がりが出てきたと感じます。CVCの設立以外に、社内に投資やM&A部隊を設けるケース、VCのファンドを通じて出資するケースも含め、スタートアップと関わること自体は、大企業の中でもかなり一般化してきた印象です。

 ただ、関係値を築くための仕組みができたといっても、オープンイノベーションはそもそも成果が出るまで時間のかかる取り組みです。現場では今、いろいろな悩みが噴出しているところではないでしょうか。当社が経済同友会で主催しているオープンイノベーション勉強会も毎回参加者が多く、手前味噌ながら好評です。

及川:特にどのような悩みが多いと感じますか。

本間:悩みを分かち合える場自体がないことだと思います。それぞれが自社内で前例のない取り組みに挑んでおり、担当者は孤独を感じています。

 スタートアップの目利きも難しいし、出資前後の社内調整でも苦労する。協業がうまく運んだラッキーなケースでも、今度は事業部を立ち上げるとなると、また様々なハードルが現れる。もっとも、オープンイノベーションから事業部立ち上げを検討するレベルまで事業を成長させられるのはすごいことで、それ自体が1つの成功指標だと思っています。

及川:大企業とスタートアップのブリッジになれる人がこれからどれだけ育っていくかが鍵になりそうですね。

本間:その通りです。そのために必要なのは、そのような人材が評価される環境を作っていくことだと思います。

 売り上げをドラスティックに伸ばすためのショートカットを考えようとすると、従来の事業のやり方では厳しいわけです。だからこそ、アライアンスやM&Aに行きつくのだと思いますが、価値観の異なる会社同士をマッチングさせるというのは、既存事業の進め方とは頭の使い方が異なります。たとえば一般的な職場で、中期経営戦略の“提携”の部分だけ、朝から晩まで考えている社員はめったにいませんよね? 仕事の質、成果のとらえ方、目標の立て方など、従来路線で業績を伸ばしていく部門とは、いろいろと相容れない部分が出てきます。

 人材育成は先の長い話ですが、まずは各企業の担当者同士が仲間になって、ノウハウや好事例を共有していくことで前進していくのではないでしょうか。当社も長年スタートアップ支援に関わり、事業会社とのマッチングも手掛けてきた立場から、サポートしていきたいと思います。

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この記事の著者

及川 厚博(オイカワ アツヒロ)

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