起業参謀に必要な「5つの眼」
田所氏を代表する著書に『起業の科学 スタートアップサイエンス』がある。『「起業参謀」の戦略書 スタートアップを成功に導く「5つの眼」と23のフレームワーク』はその類書と言っていいだろう。両者の違いは、前者が新規事業の「0→1」を書いた本で、後者は支援者としての視点や方法論を記したものだと田所氏は語る。『「起業参謀」の戦略書』は、田所氏がこれまで実践してきたスタートアップ支援のベストプラクティスを詰め込んだ1冊だ。それでは、なぜ田所氏は本書を執筆したのだろうか。
「私は『スタートアップが次の世界を作る』という信念をもっており、そのためには『メンター』が必要だと考えています。10年前の自分自身を振り返ると、本当に“しょぼい”メンターでしかありませんでした。そこでこの10年でやってきたことを体系化し、世に広め、メンターに役立ててもらおうと思いました」
田所氏の代名詞は、スタートアップや新規事業に関する大量のスライドだ。その中で田所氏はメンター(=起業参謀)を「相手が自発的に自らの能力と可能性を最大限に発揮する自律型人材を育成することができる人」だと定義する。起業参謀に必要なのは「鳥の眼」「虫の眼」「魚の眼」「人の眼」「医者の眼」という、「5つの眼」だ。
起業参謀にとって、いわゆる“コンサル本”は鳥の眼に寄りすぎだ。マクロ的な視点は大事ではあるものの、ユーザーの手触り感が足りていない。その点「この本は虫の眼をとても大事にしていて、UX的な話に重点を置いている」と田所氏は語る。仕組みで勝つためには魚の眼が大事だし、考えすぎないで早く行動した方がいいという人の眼の視点は、起業家だけでなく起業参謀も忘れてはならない。また起業家のメタ認知促進のためにはメンターが正しく問を立てることが重要であり、そのためには医者の眼も重要だ。
政府の「スタートアップ育成5か年計画」に代表されるように、スタートアップや起業家を支援する仕組みは徐々に構築されてきている。とはいえ、当該計画でも言及されているネットワークの一要素の「起業参謀」が増えないと、全体としてエコシステムは盛り上がっていかないと、田所氏は危惧する。本書をその解決の一助としていきたいようだ。