ISO56002に基づき、活発な情報の収集・活用や評価も可能な組織へ
以前、大塚氏は経営と従業員の認識の乖離を埋め、意思疎通ができる方法を探して、様々な国際的フレームワークを調べたという。エンタープライズアジャイル分野で国際的にもシェアの高い「SAFe(Scaled Agile Framework)」、LIXIL などが実践している「Scrum@Scaleフレームワーク」などもあり、いずれも考え方などはISO56002、ISO56001と共通している部分があるが採用はしなかった。
大塚氏は「SAFeの考え方は素晴らしいが、日本の組織に実装するには少し重すぎる部分があり、時間もかかる。そしてSAFeとScrum@ScaleはITプロダクトに特化したアジャイル手法が前提であるため、営業部門や経理部門、人事部門などを含めた会社組織の全体に適用するには現実的に難しい。ビジネス部門やエンジニア部門など異なる部門を横断して1つの目的に向かって取り組むためには、アジャイルもウォーターフォールも必要に応じて使い分けできる汎用的なものが良い。そのような考えのもと、プロジェクト管理手法を限定しないISO56002が妥当と考えた」と語る。
さらに、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)やISO9001(国際標準化機構による品質マネジメントシステムに関する規格の総称)などとの共通項目が多いためゼロから仕組み作りをせずに、スモールスタートで小規模な組織でも導入可能、ISOなので適用できる業界などの制限もないことも理由となった。
また、イノベーション管理ツールが市場では提供されているため簡単にすばやく仕組み作りができる。マネジメントシステムの運用コストが低く、手軽で柔軟、かつ経済産業省が推奨している心強さもあったという。
ISO56002は、前述の情報収集プロセスに加え、“上下”にそれを支援する体制を設けていることが特徴だ。組織の状況やリーダーシップ、そして支援体制、評価と改善までできて初めてマネジメントシステムとして機能する。
システムコンシェルジュでのISO56002の導入をケーススタディとして見ていこう。まず「組織の状況」については、冒頭で紹介したような厳しい状態だったところに、社長の協力によってイノベーション推進室を設けて、取り組みの協力者としてイノベーションアンバサダーを選出した。
幸運だったことは、経験豊富で優秀な人材が協力者として集まったことだ。彼らがハブ役となって、イノベーション推進室が設定した目的やテーマに応じて各部門の情報を集め、それをベースにアイデアをコンセプトやビジネスプランへと落とし込んでいく。そして、経営層がレビューと承認を行い、実行リリースへと展開が始まっていく。
そこからマネジメントレビューをして分析レポートを作成し、さらに人事評価制度にフィードバックするという循環型の仕組みをつくりあげた。
この仕組みを作る際には、様々なツールが必要になる。その中で、システムコンシェルジュの場合は、イノベーション管理ツールは、ISO56002に準拠する「IDEASCALE(アイデアスケール)」、さらにプロジェクト管理ツールは、いろんな変化に対応できるようアジャイルにもウォーターフォールにもハイブリッド対応している「ONES Project(ワンズ・プロジェクト)」、そして生成AI機能を搭載したナレッジ&コミュニケーション管理ツールである「ONES Wiki(ワンズ・ウィキ)」の3つを活用した。