京セラの統合報告書での情報開示とガイドライン
竹口幸宏氏(以下、敬称略):私は2000年に京セラに入社しまして、最初からずっと知財の仕事をしています。京セラは多角化が進んでおり、2020年からコアコンポーネント・電子部品・ソリューションという3つの事業セグメントと、コーポレートという4つのセグメントの組織体制になっています。部品メーカと捉えられることが多いのですが、現在は売り上げ・特許の件数ともにソリューションのセグメントが大きな割合を占めています。
弊社では統合報告書が定期的に作成されはじめる前の2018年から、知財や技術、ライセンスの情報をアピールしたり、協業に結びつけたりするために「知財部門のサイト」を作ったり、プレスリリースの作成・発行を行ったりしています。「知財・無形資産ガバナンスガイドラインのVer2.0」もリリースされ、統合報告書にも知財情報を開示するようになりました。
毎年新しい内容を掲載しようとチャレンジしていまして、2022年度はエネルギー分野に絞って「モノからコトへ」という世の中の流れに当社も対応しているとアピールし、2023年は世の中で話題となっている半導体、AIに京セラが関わっていることや、知財部門の定めている事業貢献金額等のKPIを紹介しています。
2024年度はまだ準備中ですが、知財戦略は事業戦略と密接に結びついているため、これまでコーポレートページに入れていた情報を事業戦略のページにも載せようと思っています。先ほど奥田さんがおっしゃっていた、「企図する因果パス」に関しては私なりに日々考えているところです。
投資家から見た、統合報告書における経営戦略と知財の一貫性
齋藤:「企図する因果パス」について、投資家の立場から澤嶋さんはどうお考えですか?
企図する因果パスとは、「知財・無形資産投資が、最終的にROIC(投下資本利益率)、PER(株価収益率)といったアウトカムにつながるように、価値創造プロセスの中で、『高収益である製品・サービスの競争力・差別化要因となる知財・無形資産は、他社となぜ・どのように異なり、どのような時間軸で持続可能で競争優位なビジネスモデルになるのか』という粒度での企図する関係性を示すものである」と、「知財・無形資産ガバナンスガイドライン」にはありますね。
澤嶋:本来、事業は人材や知財などが全部つながって成り立っているものですよね。ですが統合報告書などでは冒頭のCEOや社長メッセージと、それに続くページとのつながりがわからないものがよくあって、もったいないと感じます。
知財・無形資産投資が、企業の成長につながるまでに、どういった時間軸やステップがあるのか、その思考回路を何らかの形で示していただくと、それがひいては因果パスになるはずです。「知財・無形資産ガバナンスガイドラインVer2.0」にはキーエンスさんの因果パスを知財ガバナンス研究会の分科会で分析したものが掲載してありますが、こういったものも参考になりますね。
奥田:無形資産・知財が最終的に事業に貢献することをシンプルな原因と結果、つまり「因果」で語るのはそもそも無理があると思われるだろうことは、ガイドラインを作った我々も認識しています。ただ、「将来的にこうしていくんだ」という意味で「企図する」をつけ、きっちりと自分たちの事業をこういうつながりでやっていくのだと強い意志を示してほしいという思いを込めて「企図する因果パス」としているということに留意していただければと思います。