組織文化を変えるための“経糸”と“緯糸”
宮森:髙林さんは、東レや日本の文化が変わるのにどれくらいの時間がかかると思っていますか?
髙林:ものすごく長い時間がかかるでしょうね。それは、人間が長生きするようになったからです。うちの90歳の父に「これから価値観を変えよう」と言っても無理です。
今よりも寿命が短かった頃は、古い価値観を持った人がいなくなり新しい価値観を持つ人が多数派になっていきましたが、今は寿命が延びてしまっています。そうなるとなかなか変わらないですよ。
宮森:忍耐強くやっていくことが大事なのでしょうね。変わりづらい組織文化を変えていくためには、評価などの制度も変えていかなければならないのではないでしょうか。
髙林:ルールとマインドの両方から変えなければなりませんね。東レが繊維メーカーということもあり、私は「経糸と緯糸」という言い方をします。経がルールで、緯がマインドです。組織とは織物のようなもので、ルールとマインドが組み合って広がっています。織物をガラッと変えるためには、経糸も緯糸も変えなければなりません。
宮森:大事なお話ですね。日本の会社は、ルールやシステムといった「制度」を変えることは得意です。しかしマインドを変えることなく制度を変えるため、変えた制度を“守る”ことが目的になってしまう。そうすると組織文化は変わらないですよね。
髙林:そうなんです。ルールだけ変えても昔のマインドの人ばかりだと変わらないし、マインドだけ変えてもルールが変わらなければ広がっていきません。
宮森:キャズムの理論でいうと、会社の中の10%位の人が突っ走っても、後の人がついてこないということになりますよね。ルールとマインドと両方を変えていこうとしたときに、どのような人たちに働きかけることが重要だと思われますか?
髙林:まずはトップが変わる必要があると思います。東レは2023年に社長が交代して変革に向けて動き始めているので、今がチャンスですね。若手からも変わろうという意思を感じます。ただ、その中間にいる人たちが難しいですね。
宮森:「岩盤層」と呼ばれることもあるミドルということですね。
髙林:そうですね。そこを変えないと、若い人たちが簡単に辞めていってしまうんですよね。
一番難しいのは60歳手前の人です。シニア向けの研修もやろうとしていますが、その後の人生を自分で選択して準備しなければいけないということが、なかなか理解できない人もいます。40代はその必要性を理解し始めているし、若い人たちは言わなくてもわかっています。だから、定年が延びている中シニアがなかなか変わらないので、組織文化が変わるには時間がかかります。粘り強くやっていくしかないですね。
宮森:髙林さんには、その覚悟があるということですね。本日はありがとうございました。