自律性と共創を育むための“鍵”
宮森:大澤さんのお話を伺う中で、「Co-Creative(共創)」にポテンシャルのあるマレーシアで、「Autonomous(自律)」を核にした組織作りに強い信念をお持ちだということを感じます。自律的な組織を作る上で、最も大切なポイントは何でしょうか。
大澤:ありがとうございます。私の個人的な意見ですが、一人ひとりが持っている“経験”を、本当に大切にすることだと思っています。これは“ナレッジマネジメントの巨人”と呼ばれる野中郁次郎先生の考え方に大きな影響を受けています。たとえば、日々の仕事やお客様とのやり取りの中で、個々のメンバーが感じたり学んだりしていることは、本当に価値のあるものです。ただ、それを自分で十分に理解できていなかったり、周囲が重要視していなかったりする場合が多いと感じています。
宮森:なるほど。それを活かすためには、どのような工夫が必要でしょうか?
大澤:まずは、個々の経験の価値を全員が認識し、それを共有できる環境を作ることです。たとえば、営業が日々お客様と交わした会話や現場で得た知見には、新しい価値の芽が隠れているかもしれません。それを「大したことない」と思わず、共有できる文化を育てることが必要です。上下関係や遠慮が障壁になると、こうした共有は生まれません。だからこそ、フラットな関係性を築き、それぞれが「こんなことを思った」「こんなことがあった」と気軽に話せる環境を整えることが、自律性を高める鍵だと考えています。
宮森:そうした共有の文化が、コレクティブウィズダム(集合知)につながっていくわけですね。ただ単にグループで同じ方向に進むのではなく、個々の経験や視点が掛け合わされて新たな価値を生み出す。それが「共創(Co-Creative)」にもつながっていると感じます。
大澤:おっしゃる通りです。若い頃の私自身も、自分の仕事にどれほどの価値があるのかわからず、悩んだことがありました。しかし、実際には日々の何気ない経験の中に、ビジネスの重要なヒントやアイデアが隠れていることに後から気づきました。だからこそ、そうした価値を組織全体で見出し、共有し合える環境を作ることが、Autonomousな文化を育む上で非常に大切だと考えています。
宮森:「自律」と「共創」が両輪であるという意味がよく理解できました。前編のお話の中で、ビジョンプロジェクトのプレゼンで、営業部が顧客から得た視点をビジョンに反映させたというエピソードがとても印象的でした。ビジョンを作ること自体が目的になるのではなく、ビジョンを作るプロセス自体が、共創的な文化を育む取り組みになっているんですね。
大澤:こうした取り組みを広く発信し、次の世代にも続けてもらう仕組みを作ることも大切だと思っています。このインタビューが記事になったら、マレーシアのメンバーにも読んでもらいたいですね。彼らが自分たちの取り組みの意義を認識し、自信を持つ一助になればと思います。