「理念と戦略のズレ」を是正しつづけるのが「連動」の要諦
ここで、モデレーターのBiz/Zine編集部の栗原が、本セッションの1つ目のアジェンダに話題を移した。1つ目のアジェンダは「グループ戦略と人材戦略の連動」。

アサヒグループのピープルステートメントは、AGPの理念を「人」の文脈に落とし込む形で策定されている。この取り組みには、AGPと個別の人材戦略の連動をより強化したい意図があったのかと栗原は尋ねた。
この質問に対して、谷村氏はうなずき「ピープルステートメントの策定前には、AGPと個別の人材戦略の連動にバラつきがあったように思います」と答えた。もともとAGPは、海外事業の急拡大をきっかけに策定されている。そのため、AGPの策定以前のアサヒグループを知っている国内の従業員と、AGP策定以後にグループ入りした海外の従業員の間には、理念や組織文化の理解に隔たりがある。その差がAGPの理解度にも影響し、「連動のバラつき」につながっていたのだという。こうしたなかで、アサヒグループはAGPと個別の人材戦略の間を取り持つピープルステートメントを策定した。
この話題を受けて、日置氏は「先ほど、谷村さんはサラッとおっしゃっていましたが、ピープルステートメントが策定されたのは、コロナ禍真っ只中の2021年です」と反応。対面での接触が憚られるなかで、重要性の高いステートメントを策定することに苦労はなかったのかと尋ねた。
これに対して、谷村氏は「むしろコロナ禍だからこそ、ピープルステートメントが作れたと思っています」と予想外の答えを返した。リモートワークやオンラインコミュニケーションが前提の状況だったからこそ、特定の部門や階層に閉じない形でステートメントを策定できたのだという。
「ピープルステートメントは英語で作成され、その後文言を日本語訳しています。理念やステートメントをこうしたプロセスで策定したのはアサヒグループとして初めてのことです。なぜそうなったのかといえば、当時はオンラインコミュニケーションが前提であったため、海外の人事担当者などが策定のメンバーに自然とリストアップされていたからです。もともと、ピープルステートメントを策定した目的は、国内と海外のギャップを解消することだったため、結果的に文言を英語で作成したのは有効だったと思います」(谷村氏)
続けて、モデレーターの栗原は「連動」の具体的な取り組みについて尋ねた。具体的に、どのようなアプローチで、アサヒグループではグループ戦略と人材戦略の連動を促しているのか。
これに谷村氏は2つの軸で取り組みを説明した。1つ目の軸が「グループ戦略と個別の人材戦略の連動」。例えば、グループ戦略として新規事業を立ち上げる場合には、その際に必要な人材を獲得するといった個別の戦略を遂行しなければならない。こうした連動を効率的かつ効果的に推進することで、グループ戦略と人材戦略を円滑に連動できる。
そして、2つ目に谷村氏が挙げたのが「理念と個別の人材戦略の連動」。グループ戦略はAGPに基づいて策定されてはいるものの、グループ戦略にのみ依拠して戦略を実行していると、大元の理念であるAGPと個別の人材戦略との間にズレが生じてしまう。そのため、谷村氏は個別の人材戦略がAGPやピープルステートメントに整合しているかどうかを日常的にチェックして、理念とのズレを是正し続けなければならないのだという。
これを受けて日置氏は「アサヒグループさんは経営陣の皆さんこそ特に熱心に、AGPやピープルステートメントに基づいた行動を取っている印象があります」とコメント。経営トップが自ら理念を体現する組織文化こそが、理念と個別の人材戦略との連動を促すのではないかと指摘した。