トヨタに眠る“技術”を活かした新規事業
──はじめに、山口さんのこれまでのキャリアを教えていただけますか。
山口剛生氏(以下、山口):大学から大学院まで材料工学の研究に取り組んだ後、2010年にトヨタ自動車に入社しました。最初は材料開発の部署に所属し、塗装など表面処理に関わる材料を評価したり、サプライヤー様と共同開発したりしていましたが、その後自分の希望で研究所の先端材料技術部に異動し、材料の研究に従事しました。
そこでしばらく研究に従事するつもりだったのですが、4年ほど経った2019年に先進技術統括部に異動となり、試験研究費に関連する仕事を任され、その後「社内で培った技術を新たな価値に変える」ための取り組みに携わるようになりました。
トヨタ自動車では多額の投資をして技術開発に取り組んでいますが、そのすべてを自動車に利用できるわけではありません。そこで、社内の技術アセットを活用し、ボトムアップで事業化できる仕組みの構築を、思いを同じとする有志と共同で起案しました。同時に、社内である程度成熟している技術を三つほど選定して、技術をお持ちの方の協力を得てプロジェクト化し、私もその中で自身の経験が活かせる「WAVEBASE」に注力することになりました。現在その事業開発責任者を務めています。

──「WAVEBASE」とは、どのような事業なのでしょうか。
山口:簡単に言えば、材料開発のDXサービスです。
実は、材料開発の領域でDXを進めることはとても難しいです。多くの場合、実験をしないとデータが取れないため「データ量が圧倒的に少ない」こと、顕微鏡の画像データやスペクトルデータなどの特殊で複雑なデータがほとんどのため「データ処理が難しい」ことが原因の一つであると考えています。
そこで、これまで活用しきれていなかった顕微鏡の画像データやスペクトルデータなどを数値データに変換し、統計解析やそれを活用した意思決定につなげられるようにしたのが「WAVEBASE」です。
──最近、情報科学の技術を用いて材料開発の効率化を図るMI(マテリアル・インフォマティクス)は競争領域になりつつあるようですが、他のサービスとの差別化ポイントがあれば教えてください。
山口:「元データを活用可能な形でそのまま抽出できる」こと自体が、大きな差別化要素になっています。
従来の材料開発は、元データで課題になりそうな箇所を推測した上で、試行錯誤しながらアルゴリズムを組み立ててその箇所のデータを抽出し、性能との相関性を分析するという流れでした。そしてMIサービスの多くは、主に「データ抽出後」のフローに焦点を当てて設計されています。
しかし現場にとっては、個別で仮説を立てたりアルゴリズムを組んだりといった「データを抽出するまで」のフロー自体が大きな負担となっています。「WAVEBASE」はその点に目をつけ、元データをそのまま数値化して抽出し、性能との相関性を分析した上で課題点を元データに復元するという逆のフローを構築することで、大幅な効率化が実現できます。
今後もこの「元データを数値化できる」点を強みに、さらに多くのお客様の課題解決をご支援できればと思っています。