スピンオフやスピンアウトは現実的なオプションか
さきほど5つの出口戦略に触れたが、「出口探し」はすなわち「オーナー探し」だと考えてもらいたい。

もし、生み出した新規事業が早期に多くの利益を生み出すようなことがあれば、社内外の誰もがその事業を欲しくなる。社内で最も大きな権力を持つ社長が手中に収めることになるだろう。新しい事業部や完全子会社として手元に置くという選択肢が選ばれる。
将来有望だとしても、まだまだ何億円もの投資が必要であるならば、そうはならない。リスクを好むVCなどの外部投資家が、パトロンとして一部を引き受けなければ前に進まないのだ。もちろん、外部の投資家も丸々リスクは引き受けず、社内新規事業のリーダーもリスクを取り、覚悟ある「起業」という形を取ってこそ「スピンアウト」「スピンオフ」は成立する。
このように、新規事業の出口として「スピンオフ」「スピンアウト」というのは、とても自然でシンプルな考え方なのだ。それなら外部の支援を受けなくても実現できそうなものだが、私たちインディージャパンへの相談は増加している。
スピンアウトやスピンオフが社内で完結しないのには理由がいくつかあるのだ。
1:「リスク」の捉え方が社内外で異なる
特に上場企業では、計画上の売上や利益という成果に向かって組織が動いている。計画から逸脱しそうな新規事業は大きなリスクと映る。対してVCにとっては、大半のスタートアップは失敗するため、リスクは取るものと考える。また、既存事業の産業構造にどっぷり浸かっている経営層にとって、新しい事業は「わからない」ので、リスク要因として心理的に大きくのしかかる。
2:「価値」の捉え方が社内外で異なる
スピンオフやスピンアウトを検討すると、「値付け」に困る。新会社に移転する技術や知財の価値、新会社の企業価値についても値付けが必要となる。そしてその「価値」とは受け手が評価するものである。企業内で価値があると思われたものが、社外では価値が評価されないことも多く、その逆もよくある(安く買いたい新オーナーは正直には言わないかもしれないが)。
3:「魅力」が社内外で異なる
VCなど社外の投資家から資金を得ようとすると、ここでまた困難が生じる。それまで社内で評価されてきたピッチが伝わらなくなるのだ。
4:「手続き」が社内外で異なる
事業を別会社にしたり、VCなどから出資を受けたりすると、とたんに会社内の手続きやプロセスが役に立たないことに気づく。どのような段取りで仕事を進めていくべきか悩む方を多く見てきた。
出口戦略を決めるタイミング
企業内新規事業の出口として、スピンオフやスピンアウトが選択肢に挙げられるケースは増えているようだ。
そのようなとき、私たちインディージャパンは相談を受け、スムーズに新規事業を事業会社から切り離し、外部のパートナーからの出資が受けられるように支援をする。投資家からも魅力的な条件でありつつ、社内でのコンセンサスが得られる状態に事業計画を整えるのだ。
スムーズにスピンオフできたとしても、これは「理想形」とは呼べない。なぜなら、出口戦略と呼ぶには行き当たりばったりだからだ。新規事業というのは、社内での混乱を何かしら招くものだという前提のうえで、5つの出口戦略のいずれかを目指した活動に早期から取り組みたい。
具体的には、「PSF(プロブレム・ソリューション・フィット)[1]」が確認できた段階には出口の想定を開始するのが理想だ。さらなる仮説検証を行う際、次のオーナーをも納得させる必要があるからだ。新規事業開発プロセスを導入する際に、出口戦略についても考えてみるのは必須であろう。
[1]株式会社インディージャパン『プロブレム・ソリューション・フィット(PSF)とは?』