「クリエイティブ×ファイナンス」という異能の二人
Biz/Zine編集部・栗原茂(以下、栗原):まず、木下さんと長谷川さんそれぞれのご経歴、 LENZ&Co.がどのような会社なのかをご紹介ください。
木下翔太氏(以下、木下):私はキャリアの始まりからクリエイティブ畑を歩んでいます。大学時代にTEDがブームになり、プレゼンテーションの重要性が叫ばれていました。幸運にも、ベストセラー『プレゼンテーションZen』の著者であるガー・レイノルズ氏が大学の教授で、彼のもとで学んだことをきっかけにスライドデザインを主軸とした個人事業を開始。IVS(Infinity Ventures Summit)などのスタートアップカンファレンスで数々のスタートアップのピッチ資料や資金調達資料を手掛けてきました。

長谷川翔平氏(以下、長谷川):私のファーストキャリアは野村證券の株式アナリストです。アナリストとして「企業が持つ本質的な価値が、市場で正当に評価されていない」という課題意識を常に持っていました。その後、経営コンサルティングファームを経て、企業価値の本質と向き合いたいと考えていたところ、木下と出会い、IPO案件での協業をきっかけに共に事業を行うことになりました。「LENZ&Co.」という社名には、発信する企業側のコミュニケーションスタンスを変革し、マーケットというレンズを通して企業価値が正しく映し出されるようにしたい、という思いを込めています。

企業価値の正体は「EPS×PER」である
栗原:LENZ&Co.の支援領域をお聞かせください。
木下:IPO準備企業から既に上場している大企業まで、幅広くご支援しています。IPO準備企業には、投資家向けのロードショーマテリアル(事業説明資料)のコンサルティングを軸に、企業のコアバリューの言語化から各種クリエイティブ制作まで一気通貫で支援します。
長谷川:上場後の企業、特に大企業では、IRが形骸化した「守りの業務」になっているケースが少なくありません。我々が支援するのは、単なる資料作成の代行ではなく、企業価値向上のための「戦略策定」そのものです。組織を横断し、ファイナンスとクリエイティブの両面から、経営戦略と連動した一貫性のある価値創造ストーリーを構築できる点が我々の強みです。
栗原:そもそも「企業価値」とは何でしょうか。「企業価値の正体 = EPS×PER」という考え方を詳しくお聞かせください。
長谷川:企業価値を測る代表的な指標である株価は、「EPS(1株当たり利益)×PER(株価収益率)」という式で成り立っています。

EPSは企業の「稼ぐ力」を示す実績値で、私たちはこれを「定常収益力」と呼んでいます。多くの企業はこのEPS向上に注力しています。一方でPERは、株価がEPSの何倍かを示す指標で、これは市場がその企業の将来性、つまり「成長性」や「安定性」にどれだけ期待しているかという「市場期待値」の表れです。
東京証券取引所が「PBR(株価純資産倍率)1倍割れ」の企業に対して改善を要請していることもあり、近年、企業価値への意識は高まっています。このPBRも、分解すると「ROE(自己資本利益率)×PER」となり、結局はPER、つまり市場からの期待をいかに高めるかが重要なのです。
栗原:PERの重要性に関して、もう少し理解ができる事例などはございますか。
長谷川:では、不動産業界の事例を図版化したもので説明してみましょう。
