「日本新規事業大賞」で未評価の事業に光が当たった
──日本新規事業大賞に応募したきっかけを教えてください。
田中:企業内の新規事業は、社外から客観的なフィードバックを得る機会が少ないことが一番の動機でした。サービスの評価は顧客から直接いただけますが、事業そのものの立ち位置を知りたかったのです。そして何より、メンバーに報いたかった。電話営業で断られ続けながらも、全国を駆け回って泥臭くコネクションを築いてくれた、一人ひとりの頑張りを認めてもらいたかったんです。
──大賞受賞は、事業にどんな変化をもたらしましたか。
田中:おかげさまで、契約数はうなぎ上りです。薬局が新規事業大賞を直接知っているわけではないので、事業が好調なタイミングで受賞できたという側面もありますが、受賞がメンバーの大きなモチベーションとなり、日々の業務に一層力が入った結果でもあると考えています。
──社内からの評価に変化はありましたか。
田中:正直なところ、まだ実感はありません。というのも、私たちはまだ社内から本格的に評価されるステージにはいないと考えているからです。成長しているとはいえ、キリンの他の事業と比較すれば売上も利益もまだ小さい。社内で誇れる実績を上げるには10年はかかると覚悟しています。
本来であればまだ評価されない期間に、新規事業という枠組みで社外から光を当てていただけたことは非常に貴重でしたし、新たなメンバーの参画にもつながり、心から感謝しています。しかし、それらはあくまで通過点。20億円、100億円、1,000億円と売上を伸ばし、薬局業界全体を変革するという、より大きな目標に向かう過程の一つに過ぎないと捉えています。

新規事業開発とは、毎日が“やりたいこと”で溢れる生き方
──今後の目標を教えてください。
田中:短期的な目標は、事業を継続させるための第一歩として、必ず黒字化を達成することです。会社に迷惑をかけず、お客様の期待に応え続けるために不可欠ですから。
そして、その先に見据えるのは、「薬局の未来を仕組みで支える」というミッションの実現です。医師や医療資源が不足する中で、薬剤師の役割はますます拡張していくはず。その薬剤師の方々が本来の専門性を最大限に発揮できるよう、私たちの仕組みで支える。それが使命です。
そのために、温度管理が必要な医薬品や高額な希少医薬品の取り扱い、患者さんとの直接接点の拡大、メーカーや卸との協業、さらにはシステム面からの業務体験向上など、やるべきことは無数にあります。AI置き薬はあくまで出発点。今後、様々な方向で事業を拡大していきます。
──最後に、新規事業開発に関心を持つ読者へメッセージをお願いします。
田中:スタートが合コンというのは、我ながら少し変わった動機だったかもしれません。ただ、この事業に飛び込んでから、マインドセットもキャリアも、関わる人も業界も、文字通りすべてが変わりました。そして今では、誰に対しても強く誇れるほど薬局という業界が好きになり、その未来のためにできることはすべてやりたいと心から思えるようになった。この変化に、自分自身が一番驚いています。
毎日が“やりたいこと”で溢れる生き方になります。もし少しでも興味があるなら、挑戦をためらわないでほしい。スタートアップに注目が集まりがちですが、大企業の持つリソースや信頼を生かして新しい価値を創造できることを、私たちと一緒に証明していきましょう。