チャネルを組み合わせて価値提案を高める

第8回

 前回は、顧客インターフェースの1つ目の要素である「ターゲット顧客」についてお話ししました。今回は、2つ目の要素である「チャネル」についてご説明していきましょう。

[公開日]

[著] 白井 和康

[タグ] ビジネスモデル 競争戦略

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マルチチャネルの統制

「何を売るか」から「どのように売るか」へ

 「メーカーのロゴを取ってしまったら、どのメーカーのデジタルカメラなのか、家電量販店の店員でも分からなくなってしまうことがある。」

 あるコメンテーターが、数ヶ月前のニュース番組でこんなことを言っていました。今や、プロダクトやサービスそのもので持続的な差別化を図っていくことは難しくなってきています。それは、1.需要を恒常的に上回る供給2.他社による模倣が容易になったこと3.プロダクトライフサイクルの短命化などが理由として挙げられます。

 今回のテーマは、「チャネル」です。現代においてチャネルはプロダクトやサービスと同じくらい、あるいは業界によってはそれ以上に重要なビジネス要素となっています。つまり、「何を売るか」だけでなく、「どのように売るか」がビジネスモデルにとって不可欠な要素となってきています。チャネルの存在意義は、従来の販売拠点の量的確保から顧客交流の質的改善へ変わりつつあります。

 まずは、今回の論点を整理しておきましょう(図1)。

チャネルに関する論点図1.チャネルに関する論点

マルチチャネルの統制がキーとなる

 インターネットをはじめとする情報技術とネットワークの発展により、企業のもつチャネル数は格段に増えています。複数のチャネル間の統制不足はチャネル間のコンフリクトを起こす一方、高度に洗練されたチャネル設計はプロダクト以上の競争優位をもたらす場合さえあります。

 次に、チャネルの定義と属性を確認していきましょう(図2)。

チャネルの定義と属性図2.チャネルの定義と属性

 チャネル属性の保有タイプは、自社所有、サードパーティ、ハイブリッドの3つに分類することができます(図3)。

 チャネルを自社で持つか否かはチャネル戦略の重要なテーマの1つですが、それは主にコストとコントロールのトレードオフとなります。もちろん、2つのチャネルタイプを使い分けている企業も存在します。たとえばAppleは、アップルストア(直営店)とサードパーティ(家電量販店)の双方のチャネルを上手く使い分けながらビジネス展開しています。

チャネルの保有タイプ図3.チャネルの保有タイプ

 ハイブリッドとは、自社保有とサードパーティの中間に位置するものです。スターバックスの店舗はほとんどが直営店である一方、ドトールの店舗の多くはフランチャイズです。最近では、ビックロ(ビックカメラとユニクロの共同店舗)のような新しい形態、あるいは特定のテーマをもった複合店舗のような形態も多く現れてくるかもしれません。

複数の役割があるチャネルと購買サイクルとは?

購買サイクルを正しく理解する

 特定のチャネルは、複数のマーケティング上の役割を果たすことがあります。したがって、その役割ごとにサブ要素であるリンク機能として定義すると便利です(図4)。

リンクの定義と属性図4.リンクの定義と属性

 リンクの重要な属性は、価値提案に関する顧客と事業体間の全てのコンタクトポイントを反映する購買サイクルです。購買サイクルには、購買前(認知や評価など)、購買時(契約・支払やデリバリーなど)、購買後(付加サービスや再購買の促進など)の3つがあります(図5)。

購買サイクルの種類図5.購買サイクルの種類

 購買ライフサイクルをベースとした効果的なチャネル設計をするためには、各段階におけるターゲット顧客の目的と想定する行動を理解し、適切な対応を図る必要があります(図6)。

購買サイクルの目的と対応図6.購買サイクルの目的と対応

リンクをオファーの一部として位置付ける

 皆さんの中で、コンビニエンス・ストアで買物をしたことがない方は少ないでしょう。また、アマゾンで書籍を購入される方も多いでしょう。なぜ我々は、コンビニエンス・ストアやAmazon.comを利用するのでしょうか? 扱っている商品が極めて差別化されているわけでも、格段に安いわけでもありません。それは、チャネルリンク機能が利便性(時間や労力の削減)というオファー(価値提案のサブ要素)の一部を担っているからにほかなりません(図7)。

オファー属性の継承図7.オファー属性の継承

 さて、例によって概念モデルで描写してみましょう(図8)。オファーとリンクは、「リンクは、オファーの一部となることがある」という関係にあります。言い換えれば、リンク属性はオファー属性を継承することがある、といえます。

概念モデルによる表現図8.概念モデルによる表現

人間と機械を上手に組み合わせやチャネル設計

オムニチャネル・リテイリング、オンラインからオフラインへ(O2O)

 近年、オムニチャネル・リテイリングとい米国の小売業界におけるキーワードとなっています。オムニとは「いつでも、どこでも」を意味するもので、スマートフォンやタブレットPC、ソーシャルネットワークサービス、RFID(無線IDタグ)といった技術を駆使し、顧客情報や商品情報をシームレスに統合し、顧客との交流や顧客体験を高めようとするチャネル戦略を指すものです(図9)。

オムニチャネル・リテイリング図9.オムニチャネル・リテイリング  注1)

 特に、オンライン(スマートフォン上のオンラインアプリなど)からオフライン(実店舗)への誘導しようとするO2O(オンライン・ツー・オフライン)という考え方が、日本でも注目を浴びつつあります。

 野村総合研究所の昨年調査によると、O2Oの潜在的な市場規模は22兆円であり、これはオンライン購買額の3倍近いということが、企業の関心を集めているのかもしれません。例えば「スマポ」というサービスは、利用者が移動中にスマートフォンでアプリを起動すると、GPSにより近隣の加盟店が表示され、そのお店に行ってチェックイン操作をするだけでポイントがもらえる仕組みとなっています。

人間と機械を上手に組み合わせる

 冒頭でお話ししたとおり、チャネルを顧客との交流を深めるためのフロントオフィスとして位置付けた場合、そのサービスインターフェースは、人間主導型(人間による販売やサービス)、機械主導型(ATMやウェブサイト)、人間と機械の混成型(コールセンターやTwitterによる顧客との交流)に分類されます。注2)

 スマートフォン、タブレッドPC、GPSやセンサーといったデバイスの進化はサービスの自動化を可能にし、ネットワークの進化はサービス部門の配置転換を促進します。海外のベンダーにコールセンターをアウトソースするといった例は、後者の典型といえるでしょう。

 機械主導型のインターフェースは、顧客に対する記憶力に優れ、低コストで大量のサービスを可能にします。一方、顧客との交流において、場の空気を読みながらの丁寧な「おもてなし」という点においては人間がまだまだ勝っています。このようなサービスインターフェースの特性を正しく理解することもチャネル設計の重要な要素の1つです。

チャネルと購買サイクルのマトリクスを活用しよう

 整合性のとれたチャネル設計となっているかどうかを確認するためには、チャネルと購買サイクルのマトリクスを作成することをお奨めします。図10は、クリック&モルタル(ネットと実店舗)型の書店チェーンのサンプルを示しています。マトリクスを活用することにより、以下の2つの重要なポイントの検証と分析に役立ちます。

  • 各チャネル間においてコンフリクトが起きていないか?

 たとええば、自社保有のチャネルとサードベンダーチャネルが混在している場合、顧客の奪い合い、同一顧客への異なるオファー提示などの問題が発生する場合があります。これは、マトリクスの縦軸で検証することができます。

  • 各購買サイクルの流れに淀みはないか?

 そのチャネルリンクの働きは、購買前から購買時へ、購買時から購買後へとターゲット顧客を自然に誘導しているかを確認します。これは、マトリクスの横軸で検証することができます。

チャネルと購買サイクルのマトリクス図10.チャネルと購買サイクルのマトリクス 注3)

チャネル定義手順および抑えておくべき確認ポイント

 最後に、チャネルの定義手順を整理していきましょう(図11)。

  • 主要な価値提案とターゲット顧客を選択する。その価値提案をターゲット顧客に届けるためのチャネルを特定にする。
  • 各チャネルのリンク属性を明確にし、説明を加える。ターゲット顧客からみて、そのリンク属性が価値をもつものであれば、オファー(価値提案のサブ要素)に追加する。

チャネルの定義手順図11.チャネルの定義手順

 また、定義を行っていく中で以下の5つのポイントを抑えておくことも必要です。

  1. 有効性 - そのチャネルは、ターゲット顧客に対して有効に到達しているか?
  2. 効率性 - そのチャネルは、コスト効率の観点から妥当なものか?
  3. 伝達性 - そのチャネルは、価値提案を適切に伝達しているか?
  4. 一貫性 - チャネル間のコンフリクトはないか?購買サイクルの流れはスムースか?
  5. 適応性 - そのチャネルは、顧客行動の変化を敏感に捉えて対応できているか?

注1)「Evolution of Customer-Retailer Touch Points(米国小売業協会:NRF)」をベースに作成

注2)「インターフェース革命 (HARVARD BUSINESS SCHOOL PRESS)」を参考

注3)「Business Model Ontology(Alexander Osterwaler)」をベースに作成

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