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Biz/Zine Day 2025 October

ROIの壁は突破できるか?LIXILとMUFGが語る「CX経営」の課題と挑戦

登壇者:LIXIL 高橋マイク氏、三菱UFJフィナンシャル・グループ 長谷川亘氏

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真の鍵は「ブリッジ人材」。そしてROIの壁

 育成か、採用か。対照的に見えた両社の戦略だが、議論が深まるにつれ、両氏が「最も重要である」と口をそろえた共通のキーワードが浮かび上がった。それが「ブリッジ人材」の存在だ。

 ブリッジ人材とは、まさに「ドメイン知識と実装知(デザインやAIの知見)を行き来し、通訳・合意形成・実装の前進を担う」存在だ。

 高橋氏は、CX推進において最も重要なのは「ブリッジ人材」だと断言する。

「当初は社員がUXデザイナーになる(内製)ことが一番重要だと思っていました。しかし、それ以上に外部の専門家とメーカーである当社社員が会話できる状態を作る『ブリッジ人材』が重要だということに気づきました」(LIXIL・高橋氏)

 専門的な領域を外部パートナーに任せる選択肢を採るためにも、双方の言語を通訳できる人間が社内にいなければ、本質的な議論ができず「究極の丸投げ状態」に陥ってしまう。LIXILの育成プログラムは、まさにこの「通訳者」を育てるプログラムでもあったのだ。

 これはMUFGの長谷川氏も全く同意見であった。「普通の銀行員が、デザインワークをどうやって自分の業務に取り込んだらいいのだろう、取り込むとどういうメリットがあるのだろう、と想像することは難しい」 と現状を語る。

「UXデザイナーを外部から採用しても生かせない現状が想定できました。だからこそ研修に加え、われわれが『デザインプログラムマネージャー』と呼ぶブリッジ人材が実業を持つ銀行員とUXデザイナーの間で伴走し、デザインワークの要素を取り込んだプロジェクトをけん引していく必要があります」(三菱UFJ銀行・長谷川氏)

 専門家(デザイナー)と現場(銀行員)の間に立ち、伴走するブリッジ人材の存在こそが、組織にCXを実装する上で不可欠であると、両氏は強調した。

読者への示唆:CX推進者が直面する「2つの壁」

 セッションの最後に、両氏はCX推進が直面するリアルな課題と今後の展望を語った。これは、DXや新規事業を担うすべての専門家層にとって、共通の課題と言えるだろう。

 第一の壁は、「DX投資対効果(ROI)の可視化」である。高橋氏は「今、一番困っている」 と率直に語る。

「ROIを重視する経営層に対し、CXの成果を『(金額で)示せないこと』をどう理解していただければいいか。この部分は現状でもチャレンジが続いています」(LIXIL・高橋氏)

 CXの成果をいかに経営言語(=ROI)で説明し、継続的な投資を獲得していくか。これは推進部門にとって永遠の課題である。

 第二の壁、あるいはチャンスとして長谷川氏が挙げたのが「UX成熟度とAIの活用」だ。

 MUFGは今後、UX成熟度モデルを意識していると語る。Nielsen Normanのモデルを参考に、現状を「限定的」と分析。まずは今中計(FY24-26)の目標である「新興」ステージ(UX戦略がビジネス目標と関連付けられている状態)への到達を目指す。

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 長谷川氏は、「さらにその先の『浸透』や『構造化』のステージに早く持っていきたい」 と、中長期的な展望を語った。

「チャレンジとして、CXマネジメントにAIを導入し、そのうえでデザイナーがどう役割を定義し、活躍できるか。AI時代のデザイナーの活躍方法を模索することがチャレンジです」(三菱UFJ銀行・長谷川氏)

 AIが定型的な分析や設計を担うようになった時、CX人材はどのような付加価値を出すべきか。この問いは、すでに始まっている未来である。

 LIXILの「ドメイン知識」重視の育成、MUFGの「スピード」重視の採用。アプローチは違っても、両社に共通するのはCXを単なる「お題目」ではなく、事業競争力の源泉として捉え、組織・人材という根幹から変革しようとする強い意志であった。自社のフェーズにおいて、育成と採用の最適なポートフォリオは何か。そして何より、専門家と現場をつなぐ「ブリッジ人材」をいかに確保・育成するか。本セッションは、自社のCX戦略を再点検する上で、多くの実践的な示唆を与えるものとなった。

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Biz/Zine編集部(ビズジンヘンシュウブ)

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