投資未経験からのCVC社長就任。手段が変わっても「0→1」の本質は同じ
梶川:そして2021年、NTTドコモ・ベンチャーズ(NDV)の社長に就任されます。これは、やはりこれまでの新規事業経験を買われてのことでしょうか。
笹原:そうだと思いますが、私自身は投資の経験などまったくありませんでした。「投資経験がないのに投資会社の社長になる」のは、なかなかのプレッシャーでしたね。
梶川:未知の領域での社長業、どのように乗り越えられたのでしょうか。
笹原:最初は戸惑いましたが、よく考えると「ドコモにとってCVCはどうあるべきか」を定義し、ファンドの戦略を立て、チームを作るというプロセスは、iモードや39worksでやってきた「0→1」と同じだと気づきました。「正解がない中で、自分たちなりの答えを作っていく」という作業自体は、私の得意分野であり、好きなことだったんです。
梶川:なるほど。手段が「投資」に変わっただけで、本質は変わらないということですね。
笹原:はい。ただ、外部のスタートアップにお金を出すという意味では、社内事業とは異なる責任の重さもありました。この期間に、ドコモという大企業が、外部のスピード感や新しい視点をどう取り入れていくべきかを、社長という立場で必死に考え抜きました。結果として、2年という短い期間でしたが、ドコモのオープンイノベーションのあり方を再定義する良い経験になったと思います。

既存事業の「巨大なP/L」と向き合い、現場のリアルを知る
梶川:2023年、今度はドコモ本体の「ライフスタイルイノベーション部」へ異動されます。ここは電力やセキュリティなど、既存のコンシューマー向けサービスを統括する部署ですね。
笹原:はい、まさに「グロースフェーズ」の事業群です。私にとって初めての経験でした。ここでは、数十、数百億という規模のPL(損益計算書)を背負うことになります。ちょっとした変数が変わるだけで、利益が億単位で変動する。そのプレッシャーと、事業計画の精緻さが求められるカルチャーは、それまでの新規事業畑とは全く別物でした。
梶川:「まずはやってみよう!」という39worksの世界観とは対極にありそうですね。
笹原:ええ、まさにカルチャーショックでした。既存事業を支える幹部たちは、ドコモ全体の収益を背負って必死に働いています。そんな彼らに「オープンイノベーションだ、新しいことだ」と言っても、現場にはそんな余力はない。「なぜ現場は動かないのか」と外から言うのは簡単ですが、実際にその席に座ってみて初めて、彼らが抱える責任の重さと、リソースの限界を肌感覚で理解できました。
梶川:既存事業の視点を体験できたことは大きかったですか?
笹原:ものすごく大きかったです。また、数百人規模の組織でのモチベーションマネジメントや、事業を「撤退・終了」させる判断など、経営者としての“筋肉”が鍛えられた期間でした。この経験があったからこそ、今、事業部側の気持ちに寄り添った提案ができるようになったと感じています。
